バーバラの父親が咳払いをして、沈黙を破った。
「だから、スティーブ・・・、バーバラがしていたことを誤解していたかもしれないことが分かったんじゃないのかな? バーバラが、その男を助けるために、あの場所にいたのは良かったと言ってるつもりはないんだ・・・ましてや、君に何も言わずに、そうするのは良くないと思う・・・だが、君が考えているようなことではなかったということじゃないのかな」
スティーブはバーバラの父親を見た。彼を憐れむ気持にすらなっていた。しかし、意を決したように頭を振った。彼が座るレイジー・ボーイの横にあるマガジンラックに手を伸ばし、分厚いバインダーを取り出した。そのバインダーをぱらぱらと捲り見る。スティーブーは上の空の調子で語りだした。
「恐らく皆さんお忘れだと思うが、僕の兄のジョンは、フォックス・テレビ局の報道部長をしている。・・・上流の、一種、目立ったライフスタイルをしている人々については、どの報道局にもファイルが作ってあるものだ。一般人にも、かなりの情報が手に入るものだ・・・」
スティーブは顔を上げて、バーバラを見た。カウチの背もたれのクッションに背中を預けてくつろいでいたバーバラも、突然、不安になったのか、背を伸ばし、カウチの端に身を乗り出していた。
「それに・・・僕は私立探偵も雇ったのです。そして、これがその報告書」 スティーブは、膝の上に持っている3本リングのバインダーを指差した。
バーバラの目が、傍で見ても分かるほど、大きく広がった。彼女の不安のレベルが急激に上昇する。口は開いたが、声は出てこない。
「ラファエル・ポーター氏は、ハーパー保険会社内で、比較的影響力があるマネジャーをしている・・・」
「・・・彼は社内でかなり重視されているが、最近、少し停滞気味だ・・・彼が進めた投資が不調に終わったらしい。・・・だが、多少、仕事をがんばれば、恐らくその件は挽回することができるだろう。実際、次の夏に、彼がこの地域全体を統率する中枢部の一員に昇格する可能性がある」
スティーブは、数段落先へ目を移した。
「おっと・・・ちょっと面白い話かな。ポーター氏の職場は、実際は、市内のロウリー・ビルにある、とある。・・・マップ・クエストでチェックしたよ、バーバラ。君が働いているところとは市の反対側で、200キロも離れているね・・・」
スティーブの口調は静かだった。
「君とポーター氏は、ずいぶん大きなビルで働いていたんだね? もっと言えば、君の職場の1階ロビーにあるレストランで会うために、昼間の渋滞の中、車を飛ばしてくるにも、かなり長距離じゃないのかな。1時間の昼休みにおしゃべりをして、彼の夫婦問題の相談に乗ってあげる良き友人の間柄? それにしては気が遠くなるほど遠い距離だと思うが。どうだろう?」
スティーブは、さらに情報を求めてファイルを読むふりを続けた。