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67 Family reunion 「家族との再会」
いつかはこうなると思っていた。別に実家から遠く離れたところで働いていたわけじゃないし、あたしの過去を知る人と出くわしてしまうのは予想すべきだった。まあ、本当は予想はしていたかもしれないけど、無意識的にその危険性を無視していたのかもしれない。あるいは、心の奥で、こうなることを求めていたのかもしれない。どちらにせよ、あたしは遅かれ早かれこういうことが起きるだろうなと思っているべきだった。そうすれば、弟がベッドに座って、混乱した表情であたしを見つめてるのを見ても、あたしは驚いたりしなかったはず。
「くそッ」 ドアを入りながらつぶやいた。
「君を知ってる気がするんだけど」と彼は頭の中の記憶を探りながら眉をしかめた。「どこで会ったんだろう?」
彼の顔を見て、やがて、どういう形か分からないけど、分かってしまうだろうと思った。だから選択肢はふたつ。彼に本当のことを話して、こっちの条件で取引をする。それか、自分の仕事を普通にこなし、バレてしまった時は、彼にすべてを任せること。
「ラッセル、こんにちは。お久しぶりね」とあたしは言った。
「君は誰? どうして俺の名前を知っている?」
あたしは顔にかかった赤毛の髪を掻き上げた。「ええ、それについてはね……」
「あっ……ああっ……何てことだ」 彼はとうとう気づいたようだった。「カレブ? そんな、ありえない……」
「バレた」とあたしは無理に笑顔になった。彼の目はあたしの裸の体を行ったり来たりして、視線をあたしの身体中に這わせていたけれど、頭の中が高速で回転してるのが分かる。
「な、何が起きたんだ? ああ、なんてことだ……こんな……」
弟と最後に会ったのは5年前。あれから、あたしは誰も想像できなかったほど変わった。確かに、以前からみんなあたしがトランスジェンダーであることを知っていた。結局は、それが原因となって、あたしはこれだけ長く家族と会わなくなってしまった。両親は認めてくれず、あたしがカミングアウトすると同時にあたしを家から追い出した。弟は、あまりに他人の目を気にすぎて、変態の兄とコンタクトを取ることができなかった。
「何が起きたか、分かってるんじゃない?」 とあたしは言った。
「でも、い、今の兄さんは……」
「売春婦。そう、結果はこの通り。世の中、17歳の若者にはあまり仕事がないものよ。特に、女になる途上にいる者に仕事なんかないわ。だから、できる仕事をしたわけ。この世の中、わりとたくさんいるのよ。あたしのようなオンナにおカネをたくさん出してくれる男たちが。でも、そんなこと、改めてあんたに言う必要ないわよね? ここに来てる以上、あんたもそのフェチについては良く知ってるでしょ?」
「ぼ、僕は別に……別にゲイとかじゃないけど」
「そんなことどうでもいいわ。本当にマジでどうでもいい。あんたがどう思ってるかとか、どんな人とヤリたいと思ってるかとか、ママやパパのこととか、どうでもいいの。みんな、あたしを見捨てた。みんな、あたしが自分たちの小さな世界に合わないという理由で、あたしを狼たちの元に投げ捨てた。でも、いいこと教えてあげるわ。あたしは、そんな状況を最大限に利用したの。できることをしてきたし、それを恥とは思っていない。だから、行けばいいわ。ママに言えばいいわ。パパにも。知ってる人みんなに、自分の兄はシーメールの娼婦になったと言えばいいわ。あたしはもう気にしないから」
「ご、ゴメン、カレブ。本当にごめん」
「何がごめんよ。それにあたしの名前はカレブじゃないの。今はアナなの。だから、あたしがうちの用心棒たちを呼ぶ前に、ここからとっとと出て行くことね」