67 Fruition 「結実」
ハーベイは驚いた。「バリーか? 一体どうしたんだ? なんで裸になってるんだ? それに、お前、なんかオカマみたいに見えるぞ」
「あら、ハーベイ、あたしもあなたに会えて嬉しいわ」バリーはサングラスを鼻梁に沿って、ちょっと押し下げた。「あなたは少しも変わっていないわね」
「お前の方は変わりすぎだろ」ハーベイは以前の仕事仲間を見ながら言った。
「気づいてくれて嬉しいわ」と女性的な声が聞こえた。ハーベイは振り返り、後ろからケリーが大股で歩いてくるのに気づいた。ケリーはバリーの妻である。ケリーは、ありきたりのショートパンツとTシャツの姿だが、そんな普段着姿でも彼女の夢のようなボディの素晴らしさは隠せない。ケリーはバリーたちのところに近づくと、腰を曲げて、バリーの頬に軽くキスをした。「何か飲み物が欲しいわ。ねえ、あなた? お願い、あたしのために何か飲み物をもって来てくれない?」
ハーベイは、こんなに素早く動くバリーを見たことがなかった。それに、こんなに女性的にいそいそと動くところも。大勢のパーティ客たちの間をするり、するりと通り抜けていくバリーの姿。歩くときの、くねくね揺れる腰つきは明らかにセクシーな女性の腰つきに他ならなかった。
ハーベイはケリーに顔を向けた。「一体、これはどういうことなんだ? バリーに何をしたんだ?」
「あたしが? あたし、何もしてないわよ。彼はただ目覚めただけ」
「何言ってるんだよ、ケリー。君は前から人を操るのが好きなビッチだったじゃないか。俺は、君が俺の親友に何をしたって訊いてるんだ」
「親友?」 ケリーはうふふと笑った。「ハーベイ、あなたたち友達なんかじゃなかったわ。一度も。同僚ですらなかった。あなたはバリーを利用したでしょ。あなたも知ってるんじゃない? あなたが彼を追い出した後、ビジネスはどうなったのかしら? それが理由で、あたしの招待に応じて、ここに来たんじゃない?」
「仕事は順調だよ」とハーベイは嘘をついた。実際には、惨憺たる状態だった。バリーは会社のイノベーションの裏方として、ずっと会社を支えてきたエンジンだった。当然、彼が抜けた後、会社は停滞状態になっていた。
「ビジネス・ニュースを読んだわ。あなた、もがき苦しんでいるんでしょう。だから、金の卵を産むガチョウを取り戻しに、ここに来たんじゃない? まあ、がっかりすることになるでしょうね。今のバリーはあの可愛い頭の中に、何のアイデアも持っていないと思うわ」
「お前、彼にいったい何をやったんだ?」 とハーベイは声を荒げた。
「あれこれ、ね」 とケリーはあいまいな返事をした。「元々、彼はあんまり自己主張するタイプじゃなかったし。天才的なのは確かよ。でも、チカラで仕切るタイプじゃなかった。あたしは、彼のそんなところをちょっと強化してあげただけ。彼はあたしを愛していた。今の彼は完全に献身的になってる」
「それに、なんで裸に?」 ハーベイは、少し小さな声になって訊いた。
「ええ、そこが重要なところ。昔のバリーは、プールに来てもシャツを脱ごうとしなかった人よね? 覚えている? でも今は、どう? もう、彼ったら、今は完璧に露出狂になっちゃってるの」
「お前、彼を変えたんだろ……」
「忠実な可愛いシシーに? ええ、その通りよ」
「お、お前、モンスターか? ひどすぎる!」
「あら、お願いよ。そんな大げさに言わないで。以前の彼はみじめだったの。でも彼は今は幸せなのよ。みんな、幸せになるべきでしょ?」
「幸せだって?」
「訊きたいようだから教えてあげるけど、あたしも幸せだもの。あたしには可愛い奴隷ちゃんができたし、あなたの会社は下火になった。白状するけど、こんなに完璧に計画通りになるなんて思ってもいなかったのよ。あたしがあなたの秘書だった当時は、とても難しいだろうなって思っていたもの。最終地点がすごく遠く見ていたもの」
「お、お前がすべてを計画したのか?」
「あんた、バカ? 当り前じゃないの。女性化の件は違うかもしれないけど。それって、生理的に起きちゃったことだから。でも、その他のことは、そういうこと。あたしはバリーを誘惑した。あなたを操って、バリーを会社から追い出すように仕向けた。あたしにとっては、そんな悪いことじゃないわ。あたしのこと、あんた何て呼んでいたっけ? 電話に出るしか能のない、頭の悪いカラダだけの女だっけ? その頭の悪いカラダだけの女があんたを破滅させたのよ、ハーベイ。もうあんたが這い上がる道はないわ」