67 Performance art 「パフォーマンス・アート」
アートというものは、変なものになることもある。アートはそれがすべてだと主張する人がいる。だが、変なアートとそうでないアートがあるし、パフォーマンス・アートにも変なものがある。パフォーマンス・アーティストである若い夫婦であるジェニーとジェレミーのレイノルズ夫妻の話は、確実に変なパフォーマンス・アートに属する話である。
「ええ、あたしたち何度も変な目で見られてるわよ」とジェニーは言う。「特に、彼とふたりで愛情溢れるパフォーマンスをしてる時なんかがそうね。どういうわけか、あたしたちのパフォーマンス、狭量な心の人々に嫌悪感を与えるようなの」
ふたりを見れば、その不快感が、かなりの確度で、人前で愛情を露わにすることを好まない狭量な人々に限られるものではなさそうだと簡単に想像できる。ふたりはあまりにそっくりなので、区別することが信じられないほど難しく、その結果、このふたりの経歴を知らない多くの人々が、ふたりを双子の姉妹とみなしてしまうのだろう。双子の姉妹なのに愛し合うとはナニゴトだ、と。
「高校の頃、ボクたちはある年配の夫婦についての話を読んだんです」とジェレミーは説明する。「その夫婦はアーティストの夫婦で、90年代にふたりはパンドロジーンになろうとした。パンドロジーンって聞いたことあるかと思うけど、要するに、ふたりが一体化した存在になることね。ふたりは整形手術を受けて、互いに似た顔かたちになろうとした。でも、全然、うまくいかなかったけれどね。それほどまでの外見上の一致は達成できなかったんだよ。でも、ボクもジェニーも、この試みには触発を受けた。それに、手術する前から、ふたりとも相手の顔や姿がいいなと思って互いに似せていたし……」
「みんな、よく、あたしたちのことを兄妹と思ったものだわ」とジェニーが口を挟んだ。「だから、みんなが間違ったことを思い込むのには、あたしも彼も慣れていたの」
ふたりは多数の賛同を獲得するとすぐに、クラウドソーシングにより更なる追及を開始した。手術を受けるたびにより多くの資金が集まり、ふたりが夢をかなえるチャンスが膨らんだ。彼らが21歳になる頃には、実質上、ふたりは同一人物と言えるほどになっていた。
「最後の手術を受けるかどうか、決めようとしてるところ」とジェニーは言う。「分かると思うけど、その手術を受ければ、あたしたち本当の双子になれる。でも、ジェレミーはちょっとためらっているのよね。想像できると思うけど、彼はアノ小さなモノに執着してるの」
「いや、それは大きなことなんだよ」とジェレミーが言った。
変身する過程で一番大変だったことはと訊かれて、ジェニーは答えた。「服の購入ね。あたしたち、同じ服装をするわけだから、どんなものについても2着ずつ買わなくちゃいけないの。でも、ジェレミーはあたしよりちょっと胸が大きいのよ。これ手術の手違いだったんだけど。そこがいつも気になっているところ」
「でも、あの手術は、それなりに受ける価値があったよ」とジェレミーは言う。
ふたりの性生活について訊かれたときも、最初に答えたのはジェニーだった。「あたしにはボーイフレンドがいるわ。複数。それに時々、ジェレミーも彼らと遊んでるの。正直言って、あたしのボーイフレンドたち、あたしとジェレミーの区別がついてないんじゃないかしら。あたしたち、ジェレミーのアレは見えないように気を使っているのよ。それに、じきに、それについても心配する必要がなくなるだろうし。そうなったら、ジェレミーは、あたしがすることすべてできるようになるわ」
「お医者さんたちは、誰もボクたちの区別をできる人はいないだろうって言っているんだ」とジェレミーは言う。「ボクとジェニーは本当に同一になるだろうからって。それに、その時には、ボクたちももっとふさわしい名前に変わるつもりでいる。そのあかつきには、ボクたちは、生きたアート作品になると思うよ」
「そうね、あたしたち姉妹になるの」とジェニーは言う。「姉妹でありながら、愛し合うふたり。ふたつの体を持った単一の人間。そうなれば完璧だわ」