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Reasons 「理由」 

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67_Reasons 「理由」

誰にも理由が必要だ。

みんなは、あたしを見て、あたしの変身後の姿を凝視し、なぜ、こんなふうに変身しようと思ったのだろうと噂しあう。誰かに操られているのでは? 脅かされてやっているのでは? とうとう、気がふれたのでは? 催眠術に掛けられていると言う噂もあった。

友人たち。家族たち。同僚たち。みんな、かつての男だったあたししか知らない。昔のあたしは、自分自身が思い込んだ成功のモノサシに夢中になって、そのモノサシで最高になるように自分を駆り立てた。そして、あたしはまさにベストだった。あたしが試みたほとんどすべての事柄について、あたしはトップか、トップに近い位置にいた。仕事でもトップ。付き合う女性たちも、トップクラス。スポーツでもトップ。すべてを征服した。

でも、あたしは幸せではなかった。ほんとに、ハッピーではなかった。でも、なぜハッピーじゃないのか、自分でも分からなかった。格好いい車を乗り回し、美女たちとベッドを共にした。有名人たちを招いてパーティを何度も開いたし、ヨットも買った。大邸宅も買った。何でも手に入れた。でも、さっきも言った通り、あたしはハッピーではなかった。
自分は恐怖を感じて生きていたと分かるまで、山ほど、自己心理分析とセラピー治療を要した。恐怖とは何か? 言葉にできるモノではなかった。言葉にできていたら、ずっと扱いやすかっただろう。この恐怖は違った。あまりにもあたし自身の中核部分にかかわることであったため、それがあること自体、知ることができなかった。だが、それは確かに存在していたのだった。

ずっと前からあたしは女性になりたかったのだ。そのことをあたしは恐れていた。その欲望は、無意識的なものではあったけれど、あたしを、フェンスの反対側へと押し続けた。あたしは本当に怖かった。それゆえ、自分の権力でできるすべてを使って、自分が心の奥底で本当に求めていることから遠ざかろうと努めていたのだった。

自認したいとは思ってなかった。恐怖心もあったとは言えない。そして、これはきっぱり言える。あたしは女性的な気持ちなんか感じたこともない。でも、セラピストのおかげで現実を見ることができた。彼女はあたしに、中にあるものを出すように仕向けた。それを受け入れることでしかあたしは幸せになれない。それに抵抗してはダメ。その気持ちに降伏しなきゃダメ。そしてとうとう、彼女の助けもあって、あたしはすべてを吐き出した。

ああ、その時の気持ち! 目の前にかかっていたベールが消えたよう。これこそが自分が求めていたことだと認めただけで、世界が美しく見えた。自分は女性的だと分かった最初の瞬間から、自分はその考えに憑りつかれてると分かっていた。全身鏡の前に立ってる自分。サイズが合わないドレスを着て、似合わないかつらをかぶって、ブラジャーに靴下を丸めて詰め込んでる自分。バカとしか見えない。だけど、そんなバカな自分を見つつも、胸の奥からワクワクする気持ちが湧き上がった。そんなどうしようもなく下手な真似っこでも、周りからずっと男として死ぬまで生きろと求められ続けていたことに比べたら、ずっといいんじゃないと。体の奥底から、そんな声が聞こえてくるような気がした。

そして、そんなわけで、あたしは追求の旅を始めた。手持ちにあるおカネを全部使って最高の手術を受けたし、いろいろなサービスも受けた。そしてとうとう、あたしは以前のあたしとは分からない姿かたちになった。エッチなことしか頭にないシリコン整形の美女。まさにそんな姿に変身した。男性であったときの自分が性的に食い荒らす対象としていつも狙い漁っていた女たちとほとんど変わらない女に。

長い道のりだったけれど、ようやくあたしはハッピーだと思っている。どうしてそう思えるのか、誰にも本当の意味では理解していない。でも、あたしは、それでもかまわない。自分がなるべきと思う本当の自分になれたと思うだけで充分満足しているから。



[2018/08/04] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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