67_The Only Way 「唯一の方法」
「1秒でいいから、それするの止めてくれないか?」 ジョンはイライラを隠せなかった。「僕は話し合いをしに来たんだ。君がソレをお尻に入れたり出したりしてたら、話し合いなんかできないよ」
メルはつまらなそうに溜息をつき、ディルドを引き抜いた。「あなた、楽しいことをしたがってるんじゃないかって思ってたのに」 そう言って、立ち上がる。彼の完全に女性化した肉体……幅広の腰から豊かに膨らんだ乳房に至るまで……すべてを露わにしてジョンの目の前に立っている。「みんなは家に帰ってる。用務員の皆さんには、今夜は用事はないって言ってある。だから、何がいけないのか、全然分からないわ?」
ジョンは手で目をこすった。「みんなが噂してるんだ」
「噂なんかいつものことよ」とメルは答え、前かがみになってパンティを拾った。ツルツル肌の脚を通して、それを履く。「会社なんだから、派閥みたいなものはあるものでしょ?」
「でも、この件はそれとは違う。君だって分かってるじゃないか」とジョンは手で、濃い目の褐色の髪を梳いた。「もし、幹部たちに君のことがバレたら……確かに、それを僕も一緒に秘密にしようとしてきたわけだけど、でも、他の人たちが君の変化に気づいたらしいんだよ、メル。いつまで隠していられるか分からないんだ」
メルはスラックスに脚を通し、若干、苦労して膨らんだヒップをズボンの中に収めた。紳士用のズボンは彼のような体に合うようにはできていない。「で、あなたの提案は? あたしにカムアウトしてほしいの? 社内をドレスを着てしゃなりしゃなり歩いてほしいの? もし父が、私が……私が他と違うと少しでも疑ったら、父はあたしを会社から叩き出すだろうって、あなたなら十分よく分かってると思うけど?」
メルは再び前かがみになり、近くのデスクの引き出しから幅広の包帯を取り出した。そして、慣れた手つきで、胸に巻き付け、豊満な胸を平らにした。
「そして、その後、どうなると思う? 確実に、父はあなたもクビにするわ。そして、多分、この部局全体をシャットダウンすると思う。100人は社員がいるわ。あなた、その100人が一瞬にして失業するのを見る勇気がある? あの父なら、単に、道を踏み外した息子に嫌がらせをする以外に理由がなくても、平気で部局をひとつくらい潰すわ。それで、改めて訊くけど、ジョン、あたしにどうしてほしいと思ってるの?」
メルが胸に包帯を巻いている間、ジョンは、オフィス・チェアに座っていた。両手で顔を覆う。「自分でも分からない」 そして顔を上げた。「この行きつく先はどこなんだろう、メル? いつまで、これを続けていられるだろう?」
メルは愛する男性を見下ろした。「続ける必要がある限り、続ける。あの年寄りが死んだら、状況は変わるでしょう? 父はそんなに長生きはできないわよ。でも、それまでは、あたしたち隠し続ける。それまでは、普通の同僚のふりをする。それが唯一の方法なの」