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Transaction 「取引」 

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67_Transaction 「取引」

「ディー、君はいつも私に最高品を連れてくる」と痩せた男がボクを見下ろしながら言った。暗い色の地味なスーツと黒縁メガネ。そのレンズの後ろには、ボクの魂を侵食するような目。黒い、ビーズのような、感情の存在を示す輝きらしいものが全くない瞳。エレガントなラテックス製の手袋をしているものの、不健康そうな黄ばんだ皮膚の顔で、鋭く尖った顔の輪郭も隠せていない。端的に言って、彼は、生きる屍が安手のスーツを着ているような印象を与えていた。

ディーのことを、ボクは、まさにこの瞬間まで、自分の彼女だと思っていた。そのディーが言った。「こういう人たち、あたしが見つけるよりも、向こうの方からあたしを見つけてくる方が多いのよ」

「君は自分を過小評価しているね」 と男は言った。その声は、耳障りな音を含み、ボクは背筋に寒気が走るのを感じた。その笑顔は、どう見ても好色としか形容できない表情で、口を開くと、完璧な白い歯が見えた。その歯はこの男の他の特徴を考えると、まったくふさわしくない完璧な歯だった。「君はシシーを惹きつける才能を持っているのだよ」

ボクは何とか声を振り絞り、「ぼ、ボクは……シシーなんかじゃない。ディー、彼に言ってやってくれ」と言った。

突然、鋭い痛みがボクの頬に走った。ディーが裏拳でボクを殴ったのだった。そんなことをされるとは予想してなかったボクは、もろにその殴打を受け、その衝撃の強さに驚き、腰かけていたベッドに仰向けに倒れた。

「ディー、ぼ、ボクを殴ったね……」

「もう一度、間違ったことを言ったら、もっとひどい目に会わせてやるわよ。それでも、従わなかったら……」と彼女は男に頷いて見せ、「彼が加わってくるでしょうね」と続けた。

ボクは恐怖を感じながら、彼女が頷いた先のメガネをかけた男へ視線を向けた。男は、ディーの言葉を聞いて、いっそう嬉しそうな笑みを浮かべた。その表情は彼の猟奇的な性格をいっそう強調し、ボクは思わず両手で顔を覆った。

「お前なら上手やれるんじゃないかな?」 と男は言い、ボクの脚に手をかけ、左右に広げた。そして、かすれた笑い声をあげた。「そもそも、最初から、お前はほとんど男とは言えないじゃないか」

「まだ、あなた半分しか知っていないけどね」とディーが言った。言うまでもなく、彼女は、ボクにセックスを許したわずかな機会において、ボクがうまくできなかったことを仄めかして言ったのだろう。「でも、いつもの代金はいただくつもりよ」

男は深くゴロゴロ唸るような声を出した。「それは今度も大丈夫だ」 ボクは顔を覆った手の指の間から、男がディーに大きな箱を渡すのを見た。それをディーが開けると、ほとんど知覚できないほどのかすかな光が彼女の美しい顔を照らした。一瞬だけど、彼女の目の中に何か他のものが浮かぶのが見えた。……一度も見たことがなかった、人間のものとは違う恐ろしいものを。

ディーは箱を閉じ、それに合わせてかすかな光も消えた。ディーは握手を求めて手を差し出した。「また、あなたと仕事ができて良かったわ、ルーサー」

「こちらこそ」と男はディーの手を取った。さらにもう一方の手も重ね、握った手を軽く叩いた。その時に見た男の手の爪を見て、動物の爪のように思わざるを得なかった。「これは、私のご主人様のコレクションに加わる素晴らしい一品になるだろう」

その言葉を聞いて、体の奥から恐怖心が湧きだすのを感じた。ズキンズキンと心臓の鼓動が耳に鳴り続けた。かろうじて、ディー彼女の獲物である自分の手が拘束されるのを感じ、ボクを猟奇的な新しい所有者に預け、部屋を出て行くのを見た。

男は笑いながら言った。「さて、可愛いお前のこれからの人生についてちょっと教えてあげることにしよう」


[2018/09/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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