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A Decision 「決心」 

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68 A Decision 「決心」

「ああ、やっと」 ボクは長い髪と格闘しながらシャワーから出た。「すべてが終わると思うと嬉しい」

ジョンがバスルームに入ってきた。シャツは着てなく、ネクタイを手に持っている。「でも、そんなに悪くはなかっただろ?」 心から気にしていないような言い方だった。ジョンは、ボクが彼のガールフレンドのふりをし続けてきたことにあまりに慣れてしまって、今や、本気の感情を持ち始めているんじゃないかと思った。でも、そんな感情になったからと言って、何も良くなるわけではない。

「いや、……そうでもなかったから」 本心を言って彼の気持ちを傷つけたくなかったので、ボクは言葉を濁した。本心を言ってしまえば、これは、最初から屈辱と後悔の訓練をしているようなものだった。ボクは元の自分の生活に戻れる日が待ちきれなかった。

「でも、これは全部、キミのアイデアだったんだぜ? オレはそれに付き合っただけ。それにキミだって望んだものを手に入れたじゃないか。オレは試験を受けた。キミは奨学金を獲得した。そしてオレは何一つ不満がない」

ボクは溜息をついた。もちろんジョンが言ってることは正しい。これは単純な入れ替えにすぎなかった。彼がボクの代わりにロースクールの入試を受け、ボクは彼の家族のために彼のガールフレンドのふりをする。だけど、これは、ボクも彼も予想していたより、はるかにややこしいことになってしまったのだった。

シワみたいな嫌なもの。最初にそれが現れたのは、彼の姉がボクを温泉へ招待した時だった。もちろん自分の男性の体を隠すことはできないと思い、ボクたちは、選択を余儀なくされた。何か現状を変えるか、それとも、正直に本当のことを言うか。正直言って、すでにジョンが入試を受けていたなら、ボクは後者の道を選んだろうと思う。でも、そうではなかった。

代わりに、仕方なく、ボクはもっと女性的に見えるよう、ちょっと(完璧に元に戻せる)手術を受けることにしたのだった。ボクは結局、自分でも自分のカラダとは思えない体になった。そして、ボクは、この姿はフリをしているのであって本当の自分ではないという思いをタンスの奥にしまい込んだ。

1年後になれば、この関係は終わりになる。ボクはいろんなインプラントを取り除く。髪を切ることができる。そして、、元の自分に戻れるのだ、と。

「でも、これをやめる必要もないんだよ。知ってるだろ?」とジョンがシャツを着ながらシャワールームのドアの前に現れた。そして、シャツのボタンを留めながら「オレはやめたくないんだよ」と言った。

ボクはうつむいた。本当の気持ちを認めてしまえば、ボクの中に、ジョンに同意している部分があった。偽りの生活を長く続けていたせいで、男に戻ることが、ちょっと億劫なことに思えていた。

「できないよ」とボクは彼に近づいた。濡れたままの手を彼の胸に当てた。「ボクにも人生があるし、家族がいるし、この体はボクじゃないし」

「でも、そのカラダをキミも気に入ってるだろ。オレには分かってるよ。ちょっと考えてみて。オレたち本当のカップルになれるかもしれないんだよ。結婚して、子供を養子にもらって。家を買って、犬を飼うこともできるし、それに……」

「イヤ。それはボクの望んでることじゃないから」

「じゃあ、何が望みなんだ? オレにはそれなりの財力がある。キミが望むものを何でも与えられるよ」

「ぼ、ボクはただ……分からない。自分でもよく分からない」

「じゃあ、元に戻るのはやめておこうよ。キミがその問題に答えを出せるようになるまでは、やめておこうよ。もし、キミが元のエリックに戻りたいとなったら、それはそれでいいんだ。オレはそれを尊重するよ。でも、オレには、キミがその決心をするとは思えないんだ。キミはエリカでいて、満足している。エリカこそ、キミの本当の姿なんだよ」

ボクは溜息をついた。彼が正しいことを言ってると思う自分がいる。「いいよ。でも、永遠にこのままというわけじゃないからね。ボクが答えを出すまでの話。いい?」

ジョンは両腕をボクの体に回して、熱のこもったキスをしてきた。長々とキスをした後、体を離し、彼は言った。「約束するよ。その時はちゃんとするって」


[2018/09/27] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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