68_A Lack of Trust 「信頼の欠如」
「いいわ、認めるわ」とサンドラが言った。「これがうまくいくなんて思ってもいなかった。でも、誰も少しもあなたのことに気づかなかった。人間がどうやってこんなに速くこんなに変化できるか、本当に分からないわ」
この1週間ジェニーという名前で通ってきたジェフは、気だるそうに背伸びをした。この水着、はしたなさを守る部分がほんの少ししかなく、少し、恥ずかしさが隠せないジェフではあったけれど、それほど周りからジロジロ見られていないと知って、彼は満足していた。彼は、自分の婚約者であるサンドラの大学自体のルームメイトとして、丸々1週間、バレずに過ごしてきたのである。誰一人、疑う人はいなかった。ジェフは、自分の変装の出来栄えに自信を持ったのだった。
「ヒップの使い方がキモよ」とジェフは腰を左右に振った。彼の声は完璧に女性の声を真似ていた。
「でも、この出来栄え、あなたの本当の実力なのかあやふやじゃないかと思ってるところもあるの」とサンドラが答えた。「だって、あなた、元々、体が大きい方じゃないし。でも、これ信じられる? 摩訶不思議。あたしは確かにあなたが男だって知ってるけど、それでも、それがほとんど信じられずにいるんだもの」
ジェフは笑顔になった。「あたし、これに取り組んできたのよ。研究室で」
「えっ、あなた、男を女のように見せる方法を研究してきたの?」
ジェフは笑った。「アハハ、違うわよ。それはただの副作用にすぎないの。あたしたちがやっているのは体重を減らす薬物の研究。でも、開発途上で、それが使用者を少しだけ女性的にする副作用があることを知ったの。今のあたしのホルモン・レベル、教えてあげましょうか?」
「でも、それって安全なんでしょ? 恒久的なものじゃないんでしょ?」
ジェフは頭を縦に振った。「これって、あたしが予想したのをはるかに超えてるわ。このヒップだけ取っても……ほんと……こんなになるなんて思ってなかった。でも、薬を飲むのをやめたらすぐに、普通の状態に戻るのよ。多分」
「多分って、分からないってこと? そう言ってるのよね? まだ試験してない薬を飲んで、そして今、ちょっと困ってるんじゃ……」
「別に困ってなんかいないわ」とジェフは彼女の言葉をさえぎった。その声はジェフ自身にも苛立ってるように聞こえた。「たとえ元に戻るのがちょっと遅いとしても、僕には何とかできるから。そうするつもりだから。それに、この状態もそれなりに意味があったし……」
「意味があたって……」とサンドラがつぶやいた。「あなた、このリゾート地で開かれる独身女子の会であたしが何をするかスパイをしたがっていたわよね。意味って、そのこと? それだけためってこと? どうしてあたしがあなたを信頼していたように、あたしのことを信頼できなかったの?」
「で、あたしがあなたのことを信頼してたら、どうなったって言うの? あなたがあの男性ストリッパーに何をしたかしっかり見てたわ。もしあたしがあの場にいなかったら、ずっともっと先までやってたんじゃない? そうならなかったって言える人、どこかにいるの?」
「あなた、自分でもちんぽを咥えながら、どうやって他のことを見られたのか分からないわね」
「あたしは場の空気に馴染んでいたのよ。あなたも同じことをしてたじゃないの!」
「あたしは最後までしゃぶったりはしなかったわ。他の女の子たちもしなかった。それに、丸々1週間、ずっと目に入る男になら誰にでも色目を使った女の子たちはいなかった。フィニッシュまでしゃぶったとか、色目を使いまくったのは、あんただけよ。あたしの未来の夫であるあんただけ。女のふりをしてるあんただけ」
「こんなことで口喧嘩したくないわね。あたしはあたしなりにみんなに馴染もうとしてすることをしただけ。このことは前から言ってたでしょ? 引っ込み思案の女の子にはなりたくないと。みんなに注目される女の子になりたいと。注目を浴びたら、当然、いろいろ質問されるわよ。例えば、あんたの昔のルームメイトであるジェニーがどうして、あんたの婚約者のジェフにあんなにも似てるのかって、そんな質問をし始める。もちろん、あんたもあたしも、それについて説明したいとは思わない。だから、正気な人は誰も、あたしとジェフの関係について疑わなくなる」
「あなたはあたしを信頼すべきだったのよ」
「そうかも。でも、もう起きたことは起きたこと。今は……今夜が、ここでの最後の夜だけど、今夜ふたり何をするか話し合うのはどう? あのストリップクラブに行くのには、あたし、反対しないわよ。ダンスをしに行くのも反対しない。もちろん、あなた次第。でも、少しワイルドになりたいと思ってるの。見かけだけでもワイルドに。いい?」