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Artful revenge 「狡猾な復讐」 

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68_Artful revenge 「狡猾な復讐」

私は写真を見つめた。自分が、悔しさに口のあたりを歪ませてるのを感じる。写真を閉じたかった。削除したかった。でも、できなかった。ただ、言い知れぬ感情を抱きながら、写真を見つめるだけだった。夫の不実を示す写真を。

夫が浮気をしていることは知っていた。もう何ヶ月もそういう証拠を何度もつかんできていた。襟についた口紅。誰かほかの人の香水の匂い。深夜のメール。残業。兆候はいたるところにあった。

裏切られた気持ちだったけど、私の心の奥にあったのは、海のように広大な否認の気持ちだった。言い訳を見繕った。自分自身に、この証拠では足りないと言い聞かせた。何か幻影を見てるのだと思った。そして、ほとんど自分で問題ないと納得しかけた時、弟からのEメールを受けた。

弟とは何年も会っていない。正直、弟と音信不通になっていても気にならなかった。弟はずっと前からあまりに変になっていて、高校の後、彼が引っ越した後、家族みんながほっとしていたほどだった。私自身は恥ずべきことだと思っていたけど、彼が消えて喜んでいた自分がいた。

メールを開いた。

「こんにちは、ヘザー。ボクだよ。姉さんが存在しないフリをし続けてきたボク。ボクから連絡をもらうなんて期待していなかっただろうね。『オカマの弟』がいるなんて、思い出したくもないって。そうでしょ?」

私は一度も弟のことをそんな呼び方をしたことはない。でも、他の人たちが弟をそう呼んだり、もっとひどい呼び方をしてる時、私はただ黙って傍観していた。やめなさいと言えなかったと思う。そう言ったら、私も彼らの集中砲火を浴びることになっていたから。簡単に言ってしまえば、保身。弟も悪口を言われたくなかったら、普通に振る舞うこともできたはずなのだ。でも、弟はそうしなかった。彼は自分の進む道を選び、私は私で自分の道を選んだ。

メールはさらに続いていた。「まあ何と言うか、ボクはいま町に戻ってる。もう1年近く前から。でも、心配しないで。ボクは姉さんにも、クソ家族にも会う気はないから。ただ、あることを告白したいだけ」

私は溜息をついた。弟は過度に劇的に振る舞ってる。

「メールに写真を添付しておいたよ。姉さんはボクのことが分からないかも。最後に姉さんがボクと会ってから、ずいぶん変わってしまったから。でも、姉さんなら写真に写ってるもうひとりの人なら絶対に分かるはずだよね」

私はクリックして、画像を開いた。すぐに気持ちが悪くなったけど、弟の姿を見た。確かに予想通り、弟とはほとんど分からなかった。素っ裸で、誰か知らない男の精液を体じゅうにかけられている。どう見ても女の子にしか見えなかった。驚いていた時間はすぐに終わった。この写真の女性っぽい人が弟なのは理解できた。弟はずっと前から女性的だったのだから。当然だと言えた。

うんざりして写真を閉じようとしたとき、何か見覚えのある感覚が襲ってきた。弟のメッセージにあった通り、もうひとりの人物を私は知っていたのだった。この男性の顔はカットされていたけど、この肉体は隅から隅まで知っていた。何度も見たことがあるカラダ。少なくとも自分自身のカラダと同じくらい馴染みがあるカラダ。

事実を悟り、それを受けて心臓の鼓動が乱れてくるのを感じた。これは夫だ。高校時代、弟に対立する中心人物のひとりだった彼。今の私の夫。その夫が彼と肉体的な関係を持っている。彼女と呼ぶべきなのか? 今の弟なら、「彼女」と呼んでほしがってるのは確かだ。私は写真を何時間も見つめていたように思う。ようやく写真を閉じ、メッセージの残りの部分を読み始めた。

「ええ、その通り。彼、姉さんのご主人よ。彼、すぐに姉さんと離婚するって。あたしの方が、それほどいいってことね。まあ、あたしは姉さんが彼にしようとしないことを何でもしてあげてるから。でも、本当のこと言うとね、姉さんと彼との関係が終わったら、あたしは町を出るわ。彼なんかいらないもの。正直、憎んでいるし。でも、姉さんの人生を台無しにするためなら何でもするつもり。それが今のあたしの使命。それだけを考えてるの。だから、今のうち、どんな幸せか知らないけど、堪能しておくことね。その幸せ、じきに終わるから」


[2018/09/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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