68_Cold reality 「冷たい現実」
アビーは顔を毛布で覆いながら言った。「もう、レインったら。正直に言って。本当にただ写真を撮っただけよね?」
「まあな」と、レインは、たった今ヤッタばかりのガールフレンドの裸体を見下ろした。「俺は、お前の写真を撮るのが好きなんだ」
「削除して。今すぐに!」
「誰にも見せないよ」
「あなた、分かってないわ。もし、親たちに見つかったら……だから、削除して。いい? あなたが思ってるより、ずっと大事なことなんだから」
「なんで? 説明してくれたら、消してやるよ」
「いいわ。ママもパパも、あたしのことを知らないの。いい? ふたりともアビーのことを知らないのよ」
「親にカムアウトしてなかったのか? マジで? いったいどうやってバレずに今までこれたんだ?」
「高校出るまでの2年間、ずっと隠し続けてきたの。全部、隠し続けてきたわ。だぶだぶの服を着たり、嘘を言ったりして、ここまでやってきたのよ」
「でも、なんで? お前の親って、バイブル・サンパー(
参考)か何かなのか?」
「いいえ。そうじゃないわ。でも、パパが……パパは難しいところなの。ジョー・カートライトって名前、聞いたことある?」
「政治家の?」
「ええ。あたしが彼の娘だってバレたら、パパのこれまでが台無しになってしまうわ」
「ちょっと、話しを劇的にし過ぎていないか?」とレインは言った。「別に、トランスジェンダーの娘がいたからって……」
「パパはこの20年間、ずっとゲイの権利を阻止して過ごしてきたのよ? そのパパにトランスジェンダーの娘がいたってバレたら、パパの基盤の人たちがどんな反応すると思う? もちろん、パパ自身がどう反応するかも分からない。ベストのシナリオだったら、パパがあたしを離縁するってだけで済むと思う。最悪のケースだと……どうなるかなあ……つか、パパが何をするかなんて、考えたくないわ。だから、お願い、レイン。写真、削除して」
「分かった」と彼はスマホの写真を削除した。「でも、これだけは言いたいんだけど、お前、自分のことを隠すべきじゃないんじゃねえ?」
「そうなの。だけど、そうあるべきというのと現実っていつもマッチするとは限らないのよ」