
68_It's gone too far 「いきすぎ」
ロビーが言った。「そろそろカムアウトすべき時だと思う。少なくとも親には。兄弟にも。友達にも言うべきかもしれない」
「カムアウト? 何言ってるの?」 アレックスは裸でベッドに座りながら言った。曲線美豊かな豊満なカラダを隠そうともしない。「あたしのこと、ゲイとか言うわけ?」
「マジで言ってるのか? アレックス、お前はゲイじゃない。それはありえない」
「でしょ? どこにあたしのような人間をゲイって言う人がいるのって」
「ああ、分かっていないよ」とロビーは目をこすりながら言った。「そのうち薄れてきてくれればって願ってた。何か言い訳をしてるだけかなとかだったらいいと願ってた。分かってるんだ。誰かに相談すべきだったって。助けを求めるべきだったって。分からないけど。でも、何かすべきだったんだ」
「何言ってるの?」 とアレックスはひどく戸惑った様子で訊いた。
「あの催眠術師のことだよ!」 ロビーはアレックスの無知さに苛立ち、叫んだ。「アレを忘れたのか? もう1年も前だけど、僕はまだ……」
「彼がイカサマなのは覚えているわ」とアレックスは答えた。「まるであたしが催眠術にかかるみたいに言っていた。頼むわ、ロビー。目を覚まして。あれは本物じゃなかったんだから」
「いや、本物だったんだよ! お前は催眠術にかけられたんだ、アレックス。あいつのせいで、キミは女の子になってしまったんだ!」
「女の子? あたしが? アハハ!」 アレックスは笑い出した。「あたしが女の子に見えるって?」
「そうだよ!」とロビーは叫んだ。「この胸、僕が知ってるどんな女の子のよりも大きいんだ。あのショーの後、お前はずっとホルモンを受け続けてきたんだよ。それにお前が普段着ている服装も……」
「バカ言わないで、ロビー。あたしが何か病気になってるのは確か。それはいいわね? そのせいで胸がちょっと膨らんでる。でも……」
「ちょっと膨らんでるどころじゃないよ! お前には、大きな、オッパイが、ある!」
「その言葉、婦人科関係の言葉じゃない? あたしは男よ? 婦人科関係の言葉を使わないでよ。これは本当に医学的な意味での病状なの。そういうことであたしをからかうなんて、信じられない!」
「からかってなんかいないよ。アレックス、俺はお前のことが……」
「さっきから『お前、お前』って。あたし、そう呼ばれる筋合いじゃないわ。あたしがそう呼ばれるの嫌がってるのを知ってるでしょ? 周りの人が、まるであたしたちがカップルだって思い始めちゃうじゃないの! あたしたちがゲイだって思ってしまうんじゃない? そんなの、やめてよ!」
「でも、お、俺たちセックスしたし。それは分かってるよね?」
「もちろん分かってるわよ。それに、あなたがしつこく求めたせいで、その後もセックスしたわよ? でも、あなたにセックスを許したからって言って、あたしたちがゲイってことにはならないでしょ。それは単に……」
「そこが重要な点なんだよ!」とロビーは叫んだ。「つか、普通の人がお前のことをゲイだと思ったら、重要なことになるんだ!」
「こういう会話、もうヤメにできない? もう週に一回みたいになってる。もう、うんざりしてきてるの。こういう言い方するとおかしいと思うかもしれないけど、こういう話し合い、くたくたになってしまうのよ。その代わり、元々、計画していたように、一日中、ベッドでイチャイチャしてることにしない? ねえ、あたしとあなただけなんだから。もちろん、あなたの大きなおちんちんも仲間に入れてあげるけど。その方が楽しいと思うのよ?」
「お、俺は……」とロビーはつぶやいた。「いいよ。分かったよ。降参だ。お前って言わないよ。キミでいいかな? キミはキミのままで、それを変えることは俺にはできない。こういう状態になるまで放っておくべきじゃなかったのかもしれない。でも、もう……もう、こうなってしまったわけだし。たとえキミが望んでも、キミは元に戻れないかもしれないし。……だったら、この状況を楽しんでも何も悪いことはないかもしれない」
「あなたが何をぶつぶつ言ってるのか分からないわ。でも、もし、それであなたのおちんちんがあたしの中に入ってくれることになるなら、いつでもいいわよ」