
68_Not enough 「まだ足りない」
タミーが言った。「認めざるを得ないわね。ずいぶん進んだわね。正直、これが可能だなんて思っていなかったの。でも、あなたは、日に日に女の子らしくなっていくわ」
リッキーは褒められてにっこりとした。「それって……」
タミーは頭を左右に振った。「でも、まだ、そこまでは行っていないわ。あなたには早くそこまで行ってほしいけど、まだ達していないの。ごめんね」
それを聞いてリッキーはがっくり来るのを感じた。「でも、キミ自身で言ったじゃない?」としどろもどろになりながら言った。「言ったよ……ボクは女の子らしく見えるって。ぼ、ボクは……キミのためにこれを頑張って来たんだよ」
「別に、あたしは頼んだことは一度もなかったけど? あなたが自分で決めたことじゃない?」
リッキーはどう反応してよいか分からなかった。彼は、タミーと結ばれるチャンスを求めて、自分の全人生を、もっと言えば自分のアイデンティティのすべてを捧げてきたのだった。リッキーはタミーを愛していた。そして、彼女の方も、男性には惹かれない事実にも関わらず、彼を彼女なりに愛していた。リッキーは、自分が女の子の姿になれば、どういう姿か分からないけれど、なんとか女の子っぽくなれたならば、彼女と一緒になれると、そう思ってきたのである。
「分かってる」とリッキーは腰を降ろした。もうこんなに姿が変わってしまったが、それでも、まだ足りないのだ。そもそも、完璧になれることがあるのだろうか?
ようやく、リッキーは顔を上げた。「手術を受けてもいいよ。豊胸手術。ヒップへのインプラント。キミが望むなら何でも。ボクは……ボクは、キミが望む人になりたいんだ」
「そう言うと思った」とタミーはカウチの上、彼の隣に座った。「でも、それが可能かどうか分からないわ。同じことを1年前にも言ったはず。手術とかって、あなたにできるかどうか、あたしには分からないの」
「きっとするよ。ボクはキミが望むような女の子になる。どんなことをしてでも」
「ならば、あたしは何も決めつけずにいることにするわ。でも、何も保証はできないの。それは分かってるでしょ? あなたを愛している。本当よ。でも、あたしは自分のセクシュアリティを変えることはできないの。自分を変えることはできないの」
「ボクはできるよ」とリッキーは力説した。「きっとそうする。キミのために」