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Permanent 「恒久的」 

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68_Permanent 「恒久的」

「おはようございます、ケイト様」 あたしはお辞儀をしながら可愛らしく頬む。そして、体を起こして続けた。「朝食はあと10分ほどでご用意ができます。それまでの間、何かできることはございませんか?」

これが通常の朝の挨拶である。この半年間、毎朝、私はこれを繰り返してきたので、彼女がどう返事するかも知っていた。それでも、ベッドから起き上がる彼女にしっかりと注意を払った。眠りから覚め、目をこすり、そして私に目を向ける彼女。彼女が私の態度を吟味するのを感じる。でも、私はすべて完璧だと分かっている。黒と白の制服は、正確にあるべき姿で整っているはず。

「それ、脱ぎなさい」と彼女は言った。

私はためらわない。「はい、ケイト様」 そして、すぐに背中に手を回し、ドレスのチャックを降ろす。以前は時間がかかったけれど、今はそんなに手間取ることはない。ケイト様のメイドになってから、私は実に多くのことに慣れるようになった。2分ほどで、私の制服は綺麗に畳まれ、彼女のベッドに置かれ、そして、私は裸でその脇に立っていた。

ケイト様はじっと私を見据えた。表情が読み取れなかった。何か調べるような目で見据えられ、私は文字通り体を震わせていた。何か欠点を探しているのだろうか? それとも、単に私の体を目で堪能しているだけなのだろうか? 私には分からなかった。ただ、どちらの場合にせよ、彼女は失望しないだろうと分かる。私は自分の外見に充分すぎるほど手入れすることを学んできたのだから。

どのくらい時間が経ったか、ようやく彼女は反応した。溜息だった。「もう、これには飽きてきたわね。あなた、もうクビ!」

それまで取りすましていた私の仮面が壊れた。「クビ? 私をクビになんて、できるはずがないわ」と呟いた。

「もちろん、できるわよ。でも、心配しないで。あなたは自立するでしょう。あなたのような可愛い子はいつでも仕事を見つけることができるものなの。それに、私も輝かんばかりの推薦状を書いてあげるから」

私は打ちひしがれた。最も予想していなかったこと、それが、彼女が私をクビにすること。状況を見れば、そんなことができる可能性すら考えもしなかった。

「分かりました」 私はがっくり力が抜けて、肩を落とした。計画通り、丸1年続けるところまでは到達できなかった一方、昔の自分の生活に戻る準備をするなど、思ってもいなかった。「お医者様に予約を取ります。そうすれば元の状態に戻れるでしょう。こういうモノも取り除きます。そして……」

「何の話しをしてるの?」 と彼女は私を遮った。

「元の夫と妻の関係に戻ること。ずっと前からそういう計画だったから。つまり、丸1年は続けられなかったけれど……」

彼女は声に出して笑い出し、私は口ごもった。「夫と妻? お願いよ。そんなのありえない」

「じゃ、じゃあ、何の話しを?」

「私があなたを再び男性として見ることができるなんて、本気で思ってるの? このようなことを続けてきて?」

「でも私は男性なのです」 自分の口から間抜けな言葉が出ていると思いつつも、言い張った。「私はあなた様の夫なのです」

「確かにね。確かにかつてはそうだったかも。でも今は? 身分証明書にはイサベラ・ラモスってあるんじゃない? あなたに関係した人たちには、ジャック・レインは『自分探し』にチベットに行ったことになってるわ。2週間もすれば、死体が発見されて、ジャックの死体だと認定されるでしょうね。世の中の人たちにとって、あなたは、ただの違法移民のラテン系メイドにすぎないのよ」

頭の中がぐるぐるしていた。彼女は正しい。彼女は細かな点を見逃すとか、間違いを犯すようなタイプの人間ではない。彼女が私の昔のアイデンティティは消失したと言ったら、間違いなく、そうなっているのである。それを思い、私は大変困った状況になったと知った。

「お願いです。ど、どうか、そんなことはなさらないでください」

「もう決めたことよ。今日かぎりで、ここを出て行きなさい」

「でも、どこに行ったら?」

「そんなこと知らないわね。これはすべてあなたが思いついたこと。覚えているでしょ? あなたはロールプレイが大好きな人だった。まあ、そのロールプレイが恒久的なものだったと考えてみればいいんじゃない? セクシーなメイドとして1年だけ、ということじゃなかったと。そう思ったら、あなたみたいな人にとって、すごくワクワクすることじゃないの? さあ、朝食はどうなったの? あなたは、まだ、もう数時間は時間通りに働かなきゃダメなのよ。そういうふうに振る舞ってほしいわね」

「かしこまりました、ケイト様」 どう反応してよいか分からず、反射的にそう言っていた。私は、そそくさと、散らばった服をかき集め、仕事へと戻った。


[2018/10/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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