68_Unexpected complications 「予期しなかった厄介ごと」
「今日のこと、あなたが言い出したことよね? あたしは、あなたがみんなにあたしのことについて言う気持ちができていなかったなら、別に、家にいても全然かまわなかったのよ?」
「分かってるよ。バカなことを考えたと思ってる。いずれ、分かってしまうことだと考えておくべきだった」
「あたしは、別に、あなたの気持ちが分かっていないとは言ってないわ。あたし自身、丸2年間、フルで生活するまで両親にはカミングアウトしなかったのよ。ちゃんと理解してるの」
「じゃあ、どうしたらいいと? 親のところに進み出て、あなたたちの息子の婚約者のことをお二人ともあれほど愛しんでますが、実はトランスジェンダーなのですって言うのか?」
「それって、そんなに悪いこと?」
「キミはウチの両親を知らないんだよ。頼むよ、ほんとに。父はバプティスト教会の牧師なんだ。そんな父が、ボクとキミで教会に一緒に手をつないで入ってきてほしいなんて、本気で思うか? 母親はもっと悪い。母は優しく振る舞って、キミの顔を見て綺麗な人だねって言うとは思うけど、陰では酷いことを山ほど言うと思う。しかも、それに加えて、これから先ずっと、家族で集まるたびに、母はキミに極々小さなイヤミや攻撃をいっぱい仕掛けてきて、それが積み重なっていくんだよ」
「じゃあ、あたしのことを心配してくれているのね」
「もちろんだ。キミのことが心配だ。僕はキミを愛しているんだから。もし、あの人たちがキミは連中が考える正しい枠に収まっていないと思ったら、どうなると思う? あいつら、バカ者の群れになるよ。僕の兄の元の奥さんを、母がどんなふうに扱ったか、キミに見せたかったよ。そして、僕とキミに対しては、もっとひどい扱いをするだろうって、予想がつくだろ?」
「多分、あなたのお姉さんは黙っていてくれるんじゃない? それとも、お姉さんはそもそも見ていなかったかも。ほんの一瞬だけだったから。それに……」
「見てたよ。それに、あの目ざといアバズレ女は、聞く耳を持つ人なら誰にでも話すと思う。姉は、厄介ごとを掻きまわして大騒ぎするのを生きがいにしてるんだ」
「じゃあ、いずれカミングアウトするのね。お姉さんが、あたしのおちんちんを見たとみんなに話す。あたしたち、それに何とか対処すればよいと。それだけの話じゃない?」
「でも……」
「トム、もう『でも』はナシにして。すでに起きてることなのよ。それを何とかすればよいだけのこと。それだけのこと。あたしたちが互いに力を合わせている限り、問題はないわ。最後には上手くいくわよ」
「僕もキミくらい楽観的でいられたらいいのに」
「これはあなたにとっては初めてのこと。その気持ちは分かるわ。でも、請け合ってもいいけど、あたしは、もっとひどいことを潜り抜けてきたの。これは、道にできたちょっとしたでこぼこにすぎないの。あたしたちなら乗り越えられる。誓ってもいいわよ」