68_Used 「利用された」
「ありがとう」とエディは言った。「本当に、心の底から、ありがとう。僕は……」
「ちょっと、やめてくれる?」とキャメロンはウイッグの位置を直しながら言った。「あたしは、別に、あんたのためにこんなことをしてるわけじゃないの。抗しなくちゃいけないからやってるだけ。他に道がないからやってるだけ」
「分かってる。でも……」
「『でも』って何よ、エディ。こういうことなのよ、いい? あたしはこれをやった、そしてこれで終わり。あんたはあたしにおカネを払って、その後はふたりは別々の道を行く。もう、電話はしない。メールもしない。あたしたちそれぞれの別々の生活をしていく、ってそれだけ」
「で、でも、僕たちはもしかして何とかなるんじゃないかと……」
「何とかなるって何よ? 何回かセックスしたからと言って、まさか、あたしがあんたに気があるとか思ってるの? あんたがあたしにつきまとったのには理由があるわ。あたしは女の子として通るよう、みんなが納得するように振る舞ってきたし、あんたの元彼女にちょっとは似ているように頑張ってきた。でも、それだけよ? あんたはあたしを利用している。これまでも、ずっとあんたはあたしを利用してきた。それが分かるまで時間がかかったのは事実だけど」
「僕はキミを利用したりなんかしてないよ」と彼は穏やかな声で言った。
「じゃあアレは何て言うの? あんたは、あの女装ショーであたしを見た。ちなみに、あたしはストレートだけどね。あんたは別に求愛したわけじゃない。あたしにお酒を飲ませて酔わせて、そして、あたしを犯した。その後で、あなたはあたしを愛してるとあたしに納得させようとしてきた。その間ずっと、あたしにあなたの妹として振る舞うように計画していたんでしょ? それを利用したと言わなくて何て言うの?」
「そういうわけじゃないよ。君も分かってるはずだよ。それに、キミが本当にそんなにストレートなら、どうして、これをしたんだ?」
「分からないわ。多分、あたしは自分が思ってるほどストレートじゃないのかもしれない。あんたのせいだからかも。それとも、あたしが飛んでもないバカで、本気であんたはあたしのことを好きなんだと思い込んでいたからかもしれない。分からないし、そんなのどうでもいいわ。あたしは、ただ、これを何とかしたいだけ。あんたが約束したモノが得られれば、後はあたしは姿を消すわ。もうあたしに会わずにすむでしょうね」
「じゃあ、キミはただ遺産の分け前を奪うだけだったということなのか? この2週間、ふたりで分かち合ってきたことを忘れるつもりなのか? それが最初からの計画だったと?」
「そう、それがあたしの計画」
「分かってると思うけど、キミはこれをもうひと月かそれ以上、続けなくちゃいけないんだよ。ティナは姿を消してから2年以上になる。今どこにいるかなんて誰も分からない。だから、キミの姿がティナと違うからって、その違いはあんまり問題にならない。でも、ただ姿を見せて、書類にサインして、現金が詰まったカバンを持って『はい、さよなら』っていうほど簡単なことじゃないんだ。君はしばらくは……」
「自分がしなくちゃいけないことは分かってるわ」とキャメロンは言った。「あなたはあなたの役割を、あたしはあたしの役割をする。でも、あそこに行った後は、あなたは、この『愛してる、どうのこうの』の話は棚上げにしなくちゃいけないの。あなたとあたしは兄と妹になるのよ。あなたが何か愛に狂ったマヌケのように振る舞って、この話を台無しにしてほしくはないのよ」
「ああ、いいよ」とエディが言った。「僕がキミのことを諦めていないと知っててくれている限りは、ね。これが全部終わったら、僕は……」
「やめて」とキャメロンは遮った。「その話はストップ。今から後は、その種のことは、全部、禁止」
エディは頷いた。「ああ、分かった。さあ、服を着て。あと20分もしたら、ウチの家族が来る」