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A New Life 「新生活」 

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69 A new life 「新生活」

眠りから覚め、ボクはしばたたかせた。すぐに何かおかしいと思った。それが正確になんであるか指し示すことはできなかったが、何かが欠けている。震えるほど恐ろしい事態が起きている感じだった。

「さあ、始まりよ」と聞き覚えのある、独断的な声が聞こえてきた。ボクはすぐに、その声の持ち主はボクの元妻だと分かった。霧が晴れるようにゆっくりと視界がはっきりしてくるのに合わせて、ボクは声の方に顔を向けた。にんまりと笑う彼女の顔を見て、本能的な恐怖心にボクは喉を詰まらせた。前に彼女の笑顔を見たのは遠い、遠い昔だった。そして、その時ですら、彼女の笑顔はボクに向けられたものではなかったのである。

「い、いったい何が?」 ボクは勇気を振り絞って声を出した。すぐに声が変なことに気づく。ボクは咳払いをして、もう一度、同じことを言った。そして、声を出した途端、ボクは両手で自分の口を塞いだ。これはボクの声じゃなかった。声が高すぎる。あまりに女性的すぎる。

それを見て、彼女はいっそう嬉しそうな顔をした。「あなたが最初に何に気づくか、興味を持ってたわ。確かに、声が最初だろうっていうのは一番あり得ると思ってたわよ」

背筋にブルブルと悪寒が走った。元妻の顔に広がる、明らかに悪魔的な表情のせいもある。でも、どうしても震えてしまう要因がもうひとつあった。寒さだ。ボクはほとんど素っ裸で、下着がひとつだけ。それも、膝のところまで下げられていたのだった。

頭の中、ゆっくりと注意力が回復してくるのにつれて、ボクは他のことにも気が付き始めた。奇妙すぎることばかり。胸に感じる奇妙な重み。肩をくすぐる長い髪の毛。マニキュアを塗った爪。でも、ボクはすぐには自分の状況を本当の意味で把握したわけではなかった。下を見て、乳房がふたつ胸に揺れてるのを見るまでは。

それを見た瞬間、ボクは甲高い悲鳴を上げた。その悲鳴は、ホラー映画の新人女優が発するような金切り声だった。

「ぼ、ボクに何をしたんだ?」 乱れた息づかいをしつつも、何とか言葉を発した。

彼女は高笑いした。あの笑い声、とても人間の声には聞こえなかった。「見て分かるんじゃない? あなたを変えたのよ。完全に。後戻りできない形で。昔のあなたは、もう永遠に戻らないわ」

「お、お前……ぼ、ボクは……こんなの可能なわけがない!」 そう言ったけれど、証拠は明らかに彼女の味方をしていた。

彼女は手を近づけ、ボクの頬を軽く叩いた。「あら、でも、この通り、可能なのよ。おカネはかかったわ。難しいことだった。それに、倫理にも反するしね。でも、この通り、完全に可能なの。催眠の部分が一番難しかったわね。でも、それは必要なことだった。あなたは自分自身の意思でこうしてると、すべての人に信じてもらう必要があったから。そして、事実、みんな信じてくれたわ。みんな、あなたが生涯の夢を叶えたって思ってるわよ」

「ど、どうして……なんで、こんなことを?」

「それって、明白なはずだけど? と言うか、鏡で自分の姿を見てみたら明白になると思うけど? あなた、彼女そっくりになってるでしょ? あなたが浮気した、あのアバズレとそっくりじゃない? 顔は完璧にはできなかったわ。手術には限界があるし。でも、充分、似せられたと思ってるわ。それに、あなたの昔のアイデンティティが消え去ったことにも気づくでしょうね。おカネも全部。消え去ってると。今、あなたはただのウエイトレスなの。彼女と同じね」

「ぼ、ボクはこんな……こんなの間違ってる」とボクは自分の新しいカラダを触りながらつぶやいた。自分自身の乳房を抑えながら、柔らかく滑らかな肌に手を這わせながら、ボクは驚くほかなかった。

「そうよ。間違ってるわよ。そんなこと、どうでもいいでしょ。一番いいところは、あなたが本当の自分が何者なのか、誰にも言えないというところ。あなたは、可愛いエロ女のように行動することになる。あの女と同じ。事実、そうなってるしね。でも、明るい面もあるわよ。あなたはもはや忠誠心があるフリをしなくても済むの。誰とでも、ヤリたいと思った人とヤッテいいの。まあ、もちろん、相手は男ばっかりになるでしょうね。最近、女には興味を持たなくなっているようだし。でも、セックスの相手には事欠かなくなったのは事実よ」

ボクは何を言ってよいか分からなかった。誰だってそうなると思う。

「じゃあ、もう、服を着て。仕事に遅れるわよ。フーターズ(参考)って遅刻に厳しいんでしょ?」



[2018/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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