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Check 「チェック」 

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69 Check 「チェック」

自分がいかに不幸だったか、あたしは全然知らずにいた。毎日、しなければならないことのリストにチェックして日々を過ごしていた。もっと良い人生があり得るなどまったく知らずに。朝起きて、箱にチェック印をつける。歯を磨く。チェック。シャワーを浴びる。チェック。仕事に出る。チェック。そんなふうに進行し、毎日が日常のルーティンをこなす作業になっていた。

かつて、あたしには夢があった。目標。野心。お金持ちで有名人になりたかった。家族を持ちたかった。子供たち。郊外に2階建ての家。飼い犬。それらが本当の自分の夢ではなく、自分が持つべきと周りから思われている夢にすぎないことを知る由もなかった。でも、それらの夢の背後には、自分でもうまく名付けることができない欲望が隠れていた。それが何であるか自分でも認識できない望みが。

自分がトランスジェンダーだと知らなかったと言ったら、信じられないと思われるだろう。でも、あたしは、それまでの人生の大半を、そういうことをひとつも知らずに生きていたことを理解してほしい。自分には、そういう感情があって、心の中で膨れ上がってきているというのは知っていた。兄たちと秘密基地を作るよりは、姉たちと人形遊びをしたかった。でも、そういうことを求めるものではないと思われていることも知っていた。だから、あたしは、無理強いして、その感情を無視したのだった。

学校に通う頃になると、事態は、同時に、容易にもずっと困難にもなった。あたしは、他の男子たちがどういうふうに行動するかを見て、それを見事に真似るようになった。誰もあたしの本当のところを知らない。それに、正直言えば、あたし自身、自分の本当のところを一種忘れていたと言える。自分の本性を無視することなんて、充分に長い間、別の存在のフリをし続けていると、皆さんが思っているより容易なことだと思ってる。

でも、思春期になり、その思春期というものがその醜い頭をもたげてくると、問題の大群を一緒に引き連れてくる。急に、それまでずっと自分の友だちと思っていた男の子たちが何か別の存在のように見えてきた。もちろん、あたし自身には、それが認識できなかった。どうして自分は? 男の子というものは女の子に惹かれるものだ。そうだよね? なのに自分は? しかし、しばらく時間をかけ、自分はやっぱり他の男子と同じなのだと自分自身を納得させた。でも、本当は違うのだ。そのことが何より明らかになるのが、体育の授業の後のロッカールームだった。今でも、時々、ロッカールームの夢を見る。あの時、自分が本当のところしたかったことの夢。あまりに恐ろしくて、とても口に出して認めることなどできなかった、自分がしたかったことの夢。

高校卒業後が、あたしが本気で毎日を否認の連続で埋めるようになった時だった。毎日、あたしはチェック・ボックスにチェックマークをつけて、自分が本当になりたいと思ってる姿を無視しようと努力したのだった。それは不毛な努力だった。というのも、夜遅く、独りになると、あたしはパソコンの前に座り、本当の裸の自分になる日々を送っていたから。それは妄想のレベルで止めるべきだったと思うし、実際、止めていたかもしれない。今のご主人様に出会わなかったら。

始まりは、ただのメールの交換だったけれど、そのメールで、彼は、徐々にあたしに女性化への階段を登るよう挑み続けてきたのだった。最初は、仕事に履いていくスラックスの下にパンティを履くこと。でもすぐに、それはもっと他のことへと拡大していった。そして、気がついた時には、あたしは完全に女装して、至福の穴(参考)の前にひざまずき、生まれて初めてフェラチオをしていたのだった。それこそ、自分がなりたいと思っていた存在だった。

それでもまだ、それはあたしの生活の影にとどまっていたのだけど、ある日、彼がたったひとつ、単純な質問をしてきた時、それが変わった。その質問とは、「なぜ?」のひとこと。どうしてあたしは男性としての生活をして自分自身を苦しめ続けているのか? 自分は誰を喜ばしてあげたいと思っているのか? 誰に良い印象を与えたいと思っているのか? それらの質問に答えを出せずにいた時、自分の進むべき道が痛いほどはっきりと見えたのだった。

そして、あたしの日々のチェック・ボックスは変わった。ホルモンは? チェック。友人や家族にカミングアウトは? チェック。新しい服は? チェック。男性とデートは? チェック。女性になること? チェック。

幸せでいる? チェック。


[2018/10/30] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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