69 Expand your mind 「精神の拡張」
「ほら、クリス。見なきゃダメだよ。頼むよ。お前、ヨガパンツ(
参考)着てるんだぜ。見ないわけにいかねえだろ?」
「見ねえよ。クソに決まってるからな、ジミー。それに、これは最後にするけど、俺のことはクリシーと呼べ」
「何言ってるんだ? クリシーだって? マジか? 誰かれ構わず、どんなヤツでも、お前のことをそう呼ぼうと思っただけでも、お前、ぶん殴っていただろ? 俺は忘れちゃいねえぜ」
「人間ってのは成長するもんだ。お前も、成長すべきかもな」
「成長? 女の服着てチャラチャラ歩き回ったり、髪を伸ばしてポニーテイルにするのが成長ってか? いいか、マジで言うけど、お前、ドレスを着たりするだけからは、一歩、先に行ってしまってるぜ? ドレスばかりじゃねえ、ハイヒールを履いたり、パンティを履いたり。それ以上になってるって」
「だから何だよ? 俺は着たいものがあったら……それがどんなものでも、俺は着る。それのどこが問題なんだ? なんでお前が気にする? 俺は充分、男らしいし、そこは問題ねえんだよ。だからこそ、少しファッションで実験してるわけだ。それにな、アレはパンティじゃねえ、バカ! リズがそう言っていた」
「リズが言ってったか。ふーん。他にリズはどんなことを言った? 俺、噂を聞いてるぜ? いっぱい聞いてる。俺は信じないが、でも……」
「どんな噂だよ?」
「バカげた噂だ。俺の口から言いたくもねえ」
「いいから言えよ、ジミー。俺なら何言われても大丈夫だ」
「いいのか? マジで? いいよ、でも、俺に怒るなよ。俺から言い始めたわけじゃねえし、ましてや俺が広めたわけでもねえからな」
「いいから、言えって」
「会社のみんなが、お前が男とヤッテるって言うんだ。お前とリズのペアで、バーで男を拾ってヤッテるとかな。倉庫係のアイクだけど、あいつは、お前とリズのふたりとヤッタって言ってるんだ」
「アイク? ふーん。あいつがこんなことを得意になって言いふらす男だと知ってたら、絶対、同意しなかったけどな。だが、いずれにせよ、俺は恥ずかしいと思ってねえぜ」
「お、お前、やったのか?」
「もちろんだ。いいか、聞け、ジミー。それはただのセックスだ。リズと俺はいろんなことを実験してみるのを楽しむ関係なんだ。俺と彼女で試してみることもあるし、他の誰かと試すときもある。相手が男の場合も女の場合もある。どっちでも関係ねえ。重要なのは、気持ちいいということだけだ。で、アイクだが……まあ、あいつは俺もリズも気持ちよくなれるような代物を持っていたと言えるな」
「お、俺、何て言っていいか分からねえよ。お前、自分がゲイだって言ってるようなもんだぜ?」
「俺が言ってるのは、お前、もうちょっとだけ精神を拡張しろよってことだよ。ああ、確かに俺は前とは違った服装をしてる。お前がそれを理解してないことも分かってる。だが、重要な点は、これだ。お前はそうしなくてもいいということだ。これは俺とリズの問題であって、俺たちはこれでハッピーなんだよ。お前がそれを応援できるようになってほしいが。それに、分からねえぜ……ひょっとすると、他にもお前が俺の助けになれるようなことがあるかもな」