Need 「どうしても」
ビューティフルな一日になる兆しが全部そろっていた。お日様は出てるし、小鳥たちがさえずってるし、キャンディスは愛してる男性と一緒にいるし。それに、彼の方も彼女を愛している。この日はパーフェクトになるはずだった。でも、そうはならなかった。そして、キャンディスが秘密を明かすまでは、絶対に、パーフェクトな日になることなどないと思えた。
「お話ししなくちゃいけないことがあるの」とキャンディスは言った。ウッド・デッキで裸で立ち、ブレットの目を真正面から見つめていた。
「どうしたの?」 と彼は顔を近づけながら訊いた。この小屋の絵に描いたような美しい庭などほとんど気にかけていない。
「あたし……あたし、あなたが思っているような人間じゃないの」
「昔のことは関係ないって、ふたりで話し合ったと思うけど? 僕は知ってるよ、君が……」
「そう言うと思ったわ。でも、あたしが話し終わった後、あたしの言ったことを信じてくれるとは思えないの……。ただ、……あたしはあなたにあたしを愛してほしいと思ってるだけ。それがすべてなの。そういうふうには始まらなかったけれど、でも……」
「じゃあ、話すなよ。もし、それが今の僕たちの関係を傷つけるなら、僕は知りたくない」
「でもどうしても話したいの」とキャンディスは続けた。「どうしても話したいの。だからお願い……どうか、話させて」
ブレットは溜息をついた。「いいよ。でも、話しを聞いても、僕が君をどう思ってるかは変わらないからね。君がトランスジェンダーだと言った時も変わらなかったし、それは、これからも変わらないよ」
「あたしはあなたに嘘をついていたの」 突然、キャンディスは言った。「あなたと出会った時からずっと。どうして、あなたがあたしのことが分からなかったのか、今も分からない。でも、あたしは最初からあなたに気づかれる価値がある人間じゃなかったのよ」 そこまで言って、彼女は一度、深呼吸をした。「あたしの名前はジェシー・クレメント。あたしたちは同じ高校に通っていた」
「ジェシー……クレメント?」 ブレットはそう言った後、しばらく黙り、ようやく分かってきたのか、唸り出した。「ああ、なんて……ああ、まさか……ああ……」
「そうなの。もうわかったわね?」
「き、君は死んだと思っていた。みんな、そう思っていた、それに、ぼ、僕は、それは……」
「あなたは、その原因は自分にあったと思っていた。……知ってるわ。それが何か意味があることなら、とっくにあたしが試したわよ。当時、あたしはとても孤独だった。そして、あなたやあなたのお友達は……特に、あたしのような人間に酷いことをしてくれたわよね。あたしは、それから抜け出る道はただ一つだと思った」
ブレットは両手で顔を覆い、周りにも聞こえる声で泣き始めた。「君の死は俺のせいだと思った。お、俺は……あの出来事の後、自分の人生をすっかり変えた。別人になったんだ」
「分かってるわ。本当に。ふたりが出会ったあの夜、あなたを見た時、あたしはあなたに恥をかかせてやろうと思ったの。あなたに何をしようとしてたのか……もう、忘れたわ。でも、あなたは……あなたはすっかり変わっていた。そして、あなたとはとてもうまく付き合っていられたし。だから、交際を止められなくなったの」
「でも、僕たちは君を埋葬したんだよ。僕は君の葬式に出たんだ。そして、その葬式の間、みんなは、ひたすら……ひたすら、みんなで僕を責め続けた。僕は引っ越さなくちゃいけなかった。妹は、いまだに僕と話そうとしない。妹は僕を性差別主義者だと思っている。僕には……何のことか……分からない。どうしてなのか? なぜなのか? なぜ君はあれをしたのか? 何が起きたのか……本当に……分からない。本当に辛かったんだよ、キャンディス。どうしていいか分からなかったんだ」
「分かってる」とキャンディスは言った。「でも、今は……今は、ただ……あたしはあなたと一緒になりたいだけ。あたしたち、あのことを全部忘れることができるんじゃない? あたしは、この通り、前と変わらず女なわけだし」
「僕に話さなければよかったのに。僕に話しちゃいけなかったんだ」
「でも、どうしても離さなくちゃいけなかったの……どうしても」