Scholarship 「奨学金」
「あなたがこれをしたいと言ったのよ。忘れてないと思うけど、あたしはやめるように言ったわ」 とケイリーが言った。
「覚えているよ」とケーシーは答えた。「でも、だからって、何も楽にならないよ。それに『だから言ったでしょ』って言われても、何の助けにもならない」
「あたしがやめるように言ったのは覚えてるってわけね。宿命かなんかなら別だろうけど、これって、じきに手に負えなくなるって知ってるべきだったのよ。あなたは、本物のトランスジェンダーの女性から奨学金をもらってるの。それ、気にならないの?」
「ボクを見てよ」とケーシーは髪を掻き上げた。「今はボクも立派なトランスジェンダーの女だよ。おっぱいもある。ボクのヒップは君のよりも大きいよ」
「あなたが女の子のように見えるからといって、あなたがトランスジェンダーだということにならないわ。そのカラダになることがあなたにどんな影響を与えてるのか、あたしにははっきりしないけれど、でも、トランスジェンダーになるっていうのは、身体的なことと同じくらい精神的なことでもあるんじゃない?」
「ああ、まるでヒル先生みたいなこと言ってるよ。ボクは、ただ、これを早く済ませてしまいたいだけなんだよ。できるだけ早く学位を取って、元のボクに戻りたいだけなんだよ」
「じゃあ、それって、そんなに簡単にできると思ってるわけ? これを始めて1年しか経っていないのに、あなたはあたしが想像してたよりずっと先に進んでしまってるわよ。ベストなシナリオだと、2年で終了できる。でもそれは、夏を2回、フル稼働状態で女性化を経験するならば、ってころなの。正直に言って? それだけの時間を経た後でも男に戻れると、本当に思っているの?」
「あのバカな医者のところに行く必要がなければ、そんなに悪いことにならないんじゃない? あのホルモンを摂取する必要がなければ、多分、元に戻れるんじゃ……」
「ドレスを着たり、ウィッグを被ったりするだけ。そうすれば学費を払ってもらえると?あたし、あのホルモン云々って、まさにそれを阻止するためにあるんだと確信しているわ。それに、あなたも分かってると思うけど、あれは、性変換途上のトランスジェンダー女を助けるためにあるモノなのよ」
「ああ、でも……ボクはやめないよ。今はやめない。全部が終わるまでやめるつもりはないよ」
「大学の学費を払うにも、もっと簡単な方法があるわ」
「ああ、だけど、それはボクには向いてないよ。この方法だけなんだよ、ケイリー。これがボクにとって最善策なんだし、これを台無しにするつもりはないんだよ、ボクは」