The Pageant 「ページェント」
「ハハハ!」とジョーイは、彼女の前に立ちながら笑った。「すごく面白いね。で? ボクが本当に着る服を教えてよ」
リジーナは顔をしかめた。「これはジョークじゃないわ」 きっぱりと言い切る言い方だった。彼女はもう少し高くドレスを掲げた。「これ、可愛いと思う」
「か、可愛い?」ジョーイの顔から笑みが消え、彼は前に進んだ。ドレスに触れ、親指と人差し指でシークイン(
参考)の生地を擦った。「マジで言ってるの?」
リジーナは頷いた。「あたしたちふたりで、このために時間も労力もずいぶんかけてきたわ。あなたには負けてほしくないの」
「で、でも、これは丈が短すぎるよ。変な動きをしたら、みんなに、丸見えになってしまう」
「まあ、それも一種、重要な点ね。……それに加えて、あなたはプライバシーを保てるかというと、そういうふうにはならないみたいよ。まさか、ビキニ・コンテストのことを忘れたの?」
ジョーイは忘れてはいなかった。もっとも、そのことを頭の奥へ押しやってはいたのは事実だった。とは言え、肌を10センチ平方も覆うことができない小さな水着のことは忘れたくても、忘れられないものだった。
「もっとワクワクした感じにならなくちゃダメ。あなたは審査員たちをアッと言わせることになるの。コンテストに出る他の男たちで、あなたほど素敵な人はいないって。賭けてもいいわ」
ジョーイは後ろを向き、壁の鏡と対面した。この半年間の、体を変える集中トレーニングの結果は、決して否定できない。食事を変え、数えきれないほどの時間をウエスト・トレーナー(
参考)をつけてエアロビクスに費やした。そのおかげで、彼は自分にはありえないと思っていた砂時計を思わせるカラダを得たのだった。すべて、バカげているとしか思えない女性が参加しない美人コンテストで勝利するため。彼は、本当にこんなことをする価値があるのだろうかと思わずにはいられなかった。
ジョーイは少し内省した後、口に出した。「これ、ボクは出られないよ」
「そんなことないでしょ。あなたは出るわ」とリジーナは彼の背中に体を寄せた。
「ボクに出させる気? みんなにこんな格好のボクを見られたくないよ」
「誰もあなたに何かを強いたりしないわ。でも、ひとつひとつの選択には、それなりの結果が伴うもの。今ここで、間違った選択をしたら、あたし……あたし、いつまであなたのそばにいられるか分からない……」
「こんなバカげたコンテストのせいで、ボクを捨てるつもり?」
「そんなことないわよ」 と彼女は言い、彼は安堵と言えそうな気持を感じた。だけど、その気持ちは、その後の彼女の言葉を聞いて、急速に消えていった。「でも、あなたがそんな気まぐれな態度で、あたしが費やした時間を無駄にしてしまうなら、あなたを捨てるかもね。どれだけあなたにあたしが労力をつぎ込んだか、それを気にしないようなら、あなたを捨てるわ。心を決めるときにあたしのことを考えないなんて、そんなことが分かったら、あなたを捨てると思う」
「で、でも……」
「でもって言うの止めて、ジョーイ。コンテストに出ないというなら、それが意味してることは、あなたがあたしのことを考えていないと、そういうことよ。あなたは、さっきから、そういうことを言ってるの。そんなにあたしのことを軽んじてる人と一緒に暮らすなんて、あたしにはできない」
ジョーイは当惑してしきりに瞬きした。そして、瞬きを続けながらリジーナの瞳を見つめた。彼女と別れたくない。その気持ちは確かだった。
「分かったよ。でも、これが終わったら、ボクは普通に戻るからね。いい? その後は、パンティはナシ。お化粧もナシ。ウエスト・トレーナーもナシ」
「その時になったら考えましょう? 今は、このドレスを着ること。あたし、シークインの服に包まれたあなたのキュートなお尻が見たいの」