70 Acceptance 「受容」
「いつまで隠していられるか分からない。そもそも、隠せているかどうかも分からないよ。もう、誰か、何かに気づいた人がいるに違いないよ」
「例えば? ブールの清掃員? あなた、もう、ほとんど家にこもったきりになってるんじゃない?」
「先週、友だちと遊びに出たよ。そしたら、フィルがボクのことをずっと変な目で見てたんだよ」
「それはフィルがキモイから。フィルはずっと前からキモかったわ」
「フィルは、ボクに太ったのかと訊いてた。そう訊く理由は分かるよ。ボクは、この体を隠すためにスウェットシャツを2枚着て、その上にジャケットを着てたから」
「マイカ、何て言ってほしいの? 指をパチンと鳴らして、連中を追い払って、って? そんなことできないわ」
「できれば、ボクをお医者さんのところに連れっていって欲しいんだけど。元に戻す方法があるはずだから」
「その方法、あたしにも分からなかったのよ。医学部を出たばっかりの若造に分かるはずがないじゃないの。ごめんなさいね。でも、あなたはこの状態に慣れなきゃダメなのよ。あの事故が起きなかったら良かったのにって、あたしも本当に思ってるわ。事故の時、あなたが研究室にいなかったらよかったのにって。事故があなたの肉体に影響を与えなかったらよかったのにって。でも、こうなってしまった以上、仕方ないの。多分、いつの日か、あたしが方法を見つけることができるかもしれない。だけど、すぐに見つけられるとは思えないのよ。前にも言ったはずよ」
「じゃあ、ボクはこの状態を何とか耐え続けなくちゃいけないと?」
「そう。選択肢はないと思うの。それに加えてだけど……あなたもあたしが貸してあげたビキニ、気に入ってるんじゃない? 多分、他の女性服も気に入るかもしれないわ。その方が、真夏に6着も重ね着して動き回るよりは快適じゃない? それは確かよね?」
「分からないよ、ベッキー。これって……」
「大変なのは分かるわ。でも、それより他に、あなたが普通にしていられるようにする方法が見当たらないのよ」
「ぼ、ボクは……わ、分かったよ。でも、これからも、これを直す方法を研究してくれるんだよね?」
「もちろんよ。絶対に。でも、今のところは、あなたにはドレスを着てもらいたいわ。一緒にお買い物にいけるように。あなたにぜひ試着してもらいたい服があるのよ」