70_Adjustment 「適応」
「ほら、どうしたの? そんなに変なことじゃないわよ」
「よくそんなことが言えるなあ? 君は素っ裸で目の前に座ってるんだ。ああ、それにおっぱいまである。それが変じゃないって言うなら、変なことって他にあるかって思うよ」
「まず第一に、これはただ着衣をしてないだけ。たいしたことじゃないわ。第二に、これをおっぱいと呼ばないで。そんな言い方すると、まるで間抜けな学生みたいに聞こえるわよ。そして第三に、あなたは、あたしがこういう胸になってる正確なワケを知ってるんじゃない?」
「でも、君はその胸を元通りにするつもりだとばかり思っていたんだ。前に言っていた手術は……?」
「手術しないことに決めたの」
「彼女のせいだね? そうだろ? 彼女は君に男に戻って欲しくないのだと」
「エリンは、あたしに幸せになって欲しいと思ってるだけ。多分、あたしはバカだったのね。あたしの一番の親友も、エリンと同じく、あたしに幸せになって欲しいと思ってると思い込むなんて」
「いや、僕だって君に幸せになって欲しいよ。本気だ。でも、ただ、これって……」
「あなたは、あたしになって欲しい姿になって欲しいって、ただ、それだけでしょ? それはそれでいいの。あの薬の反応が出た後、あたしも同じことを願ったわ。元の自分に戻りたいと思った。あの時期はあたしにとって最悪の時期だったわ、ジョン。今から思えばだけど、あの時期、すぐ死ぬと思ってた。今まで生きてるなんて思っていなかった。でも、あの時、エリンに出会ったのよ。あたしがどんどん女性化していく。彼女はそれを受け入れて感謝すべきって、あたしに教えてくれたの。心身ともにそれを受け入れるといいって教えてくれたの。そして、今、あたしは幸せよ。あなたも同じように思ってくれたらいいと思ってるの」
「分かってるよ。同じように思ってるんだ。……ただ、全部、受け入れるのって大変なんだよ……」
「分かるわ。でも、あなたはそこまで到達したのよ。あっという間に、あたしが男だった時のことなんてすべて忘れるはず」