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シルクの囁き、ラベンダーの香り 第1章 (4) 

クリスは両親と同居していた。クリスの家族は、中の上クラスの収入がある一家で、都市の郊外の善良な人々が多い地域に家があった。クリスの父であるトム・マーフィは、医者や病院に精密医療機器を売る仕事をしていた。それにより、一家は、特に贅沢な暮らしではないものの、経済的に潤った生活ができていた。

トムは、仕事をすることの倫理を特に重視する人間だった。彼は、現代の子供たちが欲しがるものの、彼の主義に反するような様々な物を買い与えることは容易に可能だったが、それは頑として許さなかった。特に、トムは息子のクリスは、大学に通っている間ですら、自分で何か仕事を行い、ある程度の収入を得るべきだと感じていた。

クリスにとっても、その父親の方針は問題ではなかった。家の収入にかかわらずクリスはバイトを行い、仕事をしてきた。夏の間は、ピザの店で働いたが、残念ながら、その収入では、クリスが作り直しているクラシック・カーの仕上げをするには十分なお金にはならなかった。クリスの頑張り様は大したもので、父のトムですら、自分の稼ぎに匹敵するほどクリスが稼いでいるのではと認めるほどだった。だがクリスは、それだけ稼いでも、夏休みの2ヶ月ほどで希望の額を達成できるか、自信がなかった。

そのクリスがドクター・ジャネット・レドモンドに初めて出会ったのは、クリスの家で金曜の夜に開かれたパーティの席上だった。クリスが父親と話しているとき、ジャネットが歩み寄り、彼の父に挨拶をしたのである。トムは2人の紹介をした。

「クリス、こちらはレドモンド先生だよ。レドモンド先生、これが私の息子です。生物医用工学を専門とした学生です」

トムは自慢げにクリスの肩に腕を回して引き寄せた。

「あ・・・どうも・・・」

クリスは、ジャネットの美しい瞳を見つめながら、挨拶をした。こんな美しい瞳を見たことがないと彼は思った。

「はじめまして。お会いできて嬉しいですわ。・・・ジャネットです」 手を差し出しながら、ジャネットは名乗った。

[2006/10/27] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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