新居
2週目の週末、モニカとジェフは新居に引っ越した。2階建ての旧家をアパートに改築したもので、ふたりの住居はその2階部分にあたる。決して広いとは言えなかった。窓の脇の壁に押し付ける形でダブルベッドがあり、広げるとベッドにもなるカウチがひとつ。反対側の壁に沿ってキッチンがあり、ベッド側の奥にバスルームがある。バスルームはわりと広くて、浴槽もシャワーもついていた。全体的に言って、バスルーム付きのワンルームのアパートと言ってよかった。
しかし、最近改装したばかりである点で、状態は素晴らしかったし、家主の老婆が言うには、モニカたちが住む前にはひとりしか住んでいなかったらしい。しかし、モニカとジェフにとって、一番の魅力は家賃が高くないという点であった。
ふたりの住居は2階であり、1階部分には家主が住んでいるので、ふたりは夜の9時以降は静かにする必要がある。そういう条件での賃貸だった。改装により、家主の婦人の部屋は壁の裏側になっていた。2階に上がるための階段とは壁一枚隔てただけの構造になっていた。
しかし、その階段は、玄関を入ったホール部分と直結していたので、家主がたまたまドアを開けたままにしていた場合を除いては、誰が2階へ出入りしるかは、家主に見られることはなかった。さらに、家主の部屋の窓からは駐車スペースも見えないようになっていたので、ジェフたちや来客が出入りするところも家主にチェックされずに済む点も、良いと言えた。
したがって、プライバシーの点でもこの借家はおおむね満足できるものだった。ジェフとモニカは、さっそく、階段の2段目と5段目が少しきしむのに気づき、2段飛びで階段を登り降りするようにした。そうすれば、遅く帰ってくるときなどに音を立てずに済む。
その週末、リチャードは仕事の関係で街を離れていたので、ふたりは自分たちだけで引っ越しをした。とは言え、ふたりはほとんど所帯道具を持っていないようなものだったので、引っ越し自体は大した仕事ではなかった。ふたりだけで引っ越しをしたのであるから、当然、リチャードはふたりの新居を見ていなかった。
新居に引っ越してから二日たった。リチャードはジェフにシカゴ出張を命じた。そして、その隙に、モニカだけがいる新居に突然訪れたのだった。
玄関先に現れた李チャートを見てモニカは驚いた。ホールで話すと家主に聞かれてしまう。それを望まなかったモニカは、そそくさとリチャードを自分たちの部屋へと招き入れた。それに、彼女は、リチャードは、新居を見に気軽に訪問してきただけだろうとも思っていたのだった。
だが、彼女は甘かったのである。リチャードは部屋に入るなり、すぐにモニカの体に触り始めたからである。微妙なタッチではあったが、しっかりと触ってきている。
結婚した日、自分はこの男に口の中に舌を入れられ、お尻を揉まれた。その後、彼のアパートに居候していた時には、胸をはじめとして、裸の体を見られた。そして、その2日後の夜、キスされたばかりか、お尻もアソコも胸も触られ、お腹にいやらしい体液を塗りたくられた。さらに、リチャードは知らないけれど、壁を隔てて彼から1メートルも離れていないところで、自分は彼のことを想像しながら絶頂に達してしまった。生まれて初めてのオーガズムだった。
そして、今のこの状況。これはこれまでとは違う。いまはモニカはひとりなのだから。ジェフが家に戻ってくることはないのを、リチャードもモニカも知っていた。夫に見つかるからヤメテという言い訳は、今は使えない。
モニカは抵抗した。だが、それは形ばかりの抵抗だった。リチャードが支配権を握っており、それをリチャード自身、知っていたし、モニカもそう思っていた。この男は、ジェフの仕事を意味していたし、ジェフとモニカの収入を意味していたし、ふたりの生活基盤そのものを意味していた。
……モニカ、あなたがしなくてはいけないことは……歩調を合わせることよ。そうすれば、ジェフの仕事の役に立てることができるかもしれない。もしかすると、お給料も上げてもらえるかもしれないの……
それでも、モニカは屈伏するまいと試みた。リチャードに抱きすくめられていたモニカだったが、何とかして体を振りほどき、ひとり、カウチに座った。背筋を伸ばして毅然とした態度を装った。
リチャードはカウチの後ろに回った。そして、何の前触れもなく、いきなり右手をモニカのドレスの胸元へ滑り込ませた。
さほど胸元が開いた服ではなかったが、彼の手はモニカのブラジャーの中へと滑り込み、生肌の乳房に触れていた。そして、すぐに乳首を探り当てられてしまう。彼女の乳首はすでに固くなっていた。
リチャードは前かがみになってモニカの目を覗き込んだ。「おや? 泣いてるのか? どうしてだ?」
「あたしは……こんなことを……こんなことをさせてはいけないの。間違ったことだわ。あたしはジェフを愛しているの。それはあなたもご存じのはず」
すると、リチャードは返事もせずに、さらに前かがみになって、モニカの左の首筋に唇を寄せた。右手は彼女の右の乳房を愛撫する。モニカは、自分が首筋にキスをされるのに弱いということに気づいていた。そうされると興奮が高まるのだった。夫との愛の営みの間に、それを知ったのだが、ジェフ自身は、彼女の体のそういう仕組みには気づいていなかった。
だが、リチャードの方は気づいたらしい。モニカの反応を見ながら、しきりに彼女の首筋にキスを繰り返し、乳房を愛撫し続けた。そして、モニカも、とうとう観念し、リチャードを引き寄せるようにして、カウチの前面に来させたのだった。
……モニカを陥落させたな。今夜はモニカは俺のものだ。そして、その後も……
それは真実だった。モニカはすでに、これは一回限りのことにはならないだろうと諦めていた。そして、どうせそうなってしまうならば、自分も楽しもうと決めていた。もしかすると、生まれて初めて男性の手でオーガズムに達せるかもしれない、と。
その時点から、ふたりとも素裸になるまで何分もかからなかった。モニカが、夫婦のベッドは神聖に保ちたいと言うと、リチャードはカウチの背もたれを引いて、ベッドに変形させた。