スティーブは怒りを堪えようと努力した。簡単なことではなかった。彼はあえて間を置くことにし、背もたれがまっすぐな椅子で、わざと腰を前に出しぐったりとした姿勢になり、リラックスしようとした。両手を前に出しワイングラスの脚の部分をいじった。ジミーの首に両手を巻きつけてしまう替わりに、そうやって両手を遊ばせておいたのである。
「バーバラ? 彼が言おうとしていたことはね、僕のことを間抜けと言ったことに加えて、こういうことなんだよ。つまり、大きな家を買ったり、街の『正しい人が住む地区』にある高価で贅沢なアパートを借りたりするのに充分なお金を持っていない人々がいるということだ。ジミーのお坊ちゃんは、そういう人々はバカで、だらしない酔っ払いで、笑いものになって当然と思っているんだよ」
スティーブは怒りを堪えるための内なる戦いに負けてしまった。
「ちなみに、皆さんご存知のとおり、私は改造した移動式住居で仕事をしている」
スティーブは、だるそうな口調ではあるものの明瞭な言葉遣いで話しを続けた。彼のことを知る者には、これは警戒信号である。スティーブが非常に堅苦しい口調になり、声を囁きより少しだけ大きな程度まで和らげて話し始めたら・・・その時はみんな退避しなければならない時なのだ。彼が、子供の頃、校庭で初めて喧嘩したときからずっと、この点は変わっていない。
「建設計画の現場では私たちはそうやっているのです。トレーラーごと現場に移動する。そうすることで、すぐに現場に行けて、しかもコストの安いオフィス・スペースが確保できるのです。そこから、監督業務を行うことができる」
スティーブは顔を上げた。バーバラが彼を睨みつけているのが見えた。
「さて・・・私が現在、監督している建築現場で作業している作業員とその家族も、その多くは移動式住居で生活している。というのも、経済的にそれしかできないから。もちろん、彼らは求めているのです・・・何と呼んでいるのか? アメリカン・ドリーム? そう、それだ! それを求めている。彼らは、自分の家を持つというアメリカン・ドリームを求めている。だが今の時代は彼らには厳しい・・・いや、これまでもずっと厳しかったわけだ・・・何も新しいことではない。現実はというと・・・そのような人々は、郊外の大きな家を手にし、その頭金を支払うための準備金を用意できるほど給与をもらえていないということだ」
「しかも、金持ちの叔父がいるわけでもない」 誰もがスティーブの口調に叱咤するトーンがこもっていたことに気づいた。
「ジミー坊ちゃん」は口をあんぐりと開けてスティーブを見ていた。ジミーの叔父は会社の持ち主であり、これまで誰も、このようにあからさまな敵意を込めてジミーに話しかけようとする者などいなかった。ジミーは怒り始めていた。
スティーブは続けた。「私について言えば、私はこれまで一度も、自分に与えられた能力で、できる限りのことをしながら正直に、一生懸命働いている男女をバカにするような、冷酷な態度を取ったことはない。そんなことは、そもそも私にはできないことだが、それでも、自分のことは立派な男だと思っているがね」
スティーブは、最後の言葉を言うのに合わせて、ワイングラスから目を上げ、強い視線でジミーの目を見据えた。いまやスティーブは怒りを隠そうとはしていなかった。もっと言えば、彼はジミーには侮辱されたという感情を抱いて欲しいものだと思っていた。同じテーブルにいた他の3組の夫婦のうち2組の夫婦の夫は、密かに来たる身体的接触を伴った口論に備えて、自分の妻を守る動きに入る準備をした。