For her good 「彼女のために」
「オーケー、ああ、いいよ。面白かったよ。そう言ってほしかったんだろ? 満足した?」
「ええ、そうね。この夏をここで過ごした意味は、それだものね? 楽しむこと」
「ボクが意味したことはそれじゃないって、分かってるくせに。女の子になるってことだよ」
「あら、そのこと?」
「そうだよ。ボクは君が言ったことは正しかったと言おうとしてるんだ。この夏、女の子のフリをして過ごす。これって、思っていたよりずっと楽しかったよ。もっといろんなこと……何のことか分かるだろ?……そういうことができたはずだったとは思うけどね」
「あたしが突然、『ルームメイト』と同じベッドで寝たいって言ってたら、うちのおばあさん、そんなの変だって思ったはずだもの。あたしはストレートでしょ。おばあさんも、あたしがストレートだと知ってるわ。それに、うちの家の壁は薄いの。あたしとあなたが何かしたりしてたら、おばあさんに聞かれていたかもしれないのよ」
「まあね。君はそういうふうに言うけどね。でも、あのおばあさんの家で3か月暮らしてきたけど、彼女、本当に君が言ってるような人なのか、信じがたいと思う時があるんだよ。本当に、君が言うような反応をする人だと思ってるの? ボクの正体を知った後でも、だけど」
「チャド、おばあさんはチャドのことはしらないの。知ってるのはリサのことだけ。これは大きな違いよ。特におばあさんにとっては大きな違いなの。おばあさんは、男性を憎んでるの。そればかりか、あたしが男の子と一緒に住むと言ったらもう反対するに決まってるの」
「ああ、でも……」
「ちょっと聞いて。おばあさんは、あたしを育ててくれた。いいわね? ママが死んだあと、あたしにはおばあさんしか身寄りがいなかったの。だから、あたしは、どうしてもおばあさんの気持ちを逆なでしたくないのよ。特に体の調子があまりよくない時だから、なおさら」
「でも、いずれバレてしまうことだろ? ボクがリサじゃないって」
「多分、そんなときは来ないわ。あたしたち、ここから遠く離れたところに住んでるし、それに、いま言ったけど、おばあさんは体調がよくないの」
「おばあさんが亡くなるまで待てって言ってるわけ? ちょっと、不健全な感じだなあ」
「おばあさんはもうすぐ90歳になるわ。彼女の死についてあたしたちが話し合おうが、どうしようが、近々、そういうことになるのよ。それに、おばあさんには、あたしのことをそんなふうに思ってほしくないの。これはゲームと考えてもいいわ。これからも、おばあさんに会う時だけ、あなたはリサに変身すればいいの。あなたもさっき言ってたでしょ、楽しかったって。それにおばあさんには、あなたのアソコは見えないわけだし」
「まあ、多分ね。ボクは不誠実でいるのは嫌だけど……でも、まあ……そうしなくちゃいけないって言うなら、分かったよ」
「素敵! あなたなら、分かってくれると思ってたわ!」
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