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Fetish 「フェチ」 

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Fetish 「フェチ」

神様に誓ってもいいけど、こんなふうになるはずじゃなかった。5年前、誰かがあたしにこういうふうになると言っていたら、あたしは、その人を嘘つきと呼んでいただろうと思う。その人とケンカをしたかもしれない。あたしはシシーじゃないし、女の子でもない。あたしが自分のことを何と呼ぼうとも、そんな人間じゃないと。そもそも、そういうこと思うこと自体、笑い飛ばすことだっただろうと思う。だけど、あたしは、いまここにいる。たくさんいる女の子たちに混じって、ひとりの女として、ここにいる。そして、ご主人様があたしのことを選んでくれるのを待っている。もし選んでくれたら、あたしは、彼が望むことを何でもしてあげるし、あたし自身、そうすることが嬉しくてたまらないと思っている。それが、今の、あたしの生活。

ちょっと聞いて。あなたが思っていることは分かっているわ。あたしの姿を見ながら、信じがたいと思っている、と。多分、あたしは最初からこうなることを目指していたのだろうと。そうでしょ? 他の人もみんなそう思っている。「お前は変態っぽい生活をしていたかもしれないが、それは言わずにおいてやろう。それを省いても、お前は子供の頃はお人形で遊んだり、姉や妹の服をこっそり着てみたりしていたんじゃないのかな?」って、そう思うんでしょ? そうじゃないっていくら時間をかけて説得しても、絶対に信じてくれない。だから、もういいよ。こっちもあなたたちを信じないから。あたしは、めったに人のことを信じない。そうやって生きてきた。

多分、始まりはフェチからだったと思う。シーメールのポルノビデオを偶然見て、それに嵌ったのは、あたしばかりじゃないと思う。なんでこんなに惹かれる? 自分でもそれが謎で、何年も考え続けた。今から思うと、それについては、当時、自分には分かっていたと思っていたほど、今のあたしは分かっていない。ともかく、何の前触れもなくあたしはそれに惹かれたのだった。そして気がついた時には、「普通の」ポルノでは全然ヌケなくなっていた。出てくる女の子にペニスがついてないと、イケなくなっていた。さらに悪いことに、このフェチがあたしの生活を支配し始めるのにつれて、ポルノを見るたびに、あたしはストーリーの中の男優に感情移入しなくなっていた。むしろ、出てくる女の子とかシーメールとか、何と呼んでも構わないけど、そちらの方に意識に気持ちを集中させるようになっていたのだった。それから1年しないうちに、この気持ちは、「強制女体化」のストーリーに進化していった。個人的な印象だけど、変な話であればあるほど、気持ちが乗った。中毒といってよかった。毎日、夜になると、あたしは、この「強制女体化」の話しを思い浮かべずにいる時間がなくなっていた。いつも、ストーリーや展開を考える日々が続いた。

そして、突然、この妄想が別次元のことに変わったのだった。ただの妄想では我慢できない。現実のことになって欲しい、と。そこで、あたしはネットに関心を向け、ランジェリー、ディルド、ウィッグ、お化粧品を検索しまくった。自分がどれだけ興奮していたかに気づいたのは、注文品が送られてくるのを待っている時だった。ランジェリーを着てウィッグを被ったらどんな感じになるんだろう。ディルドを試したらどんな気持ちになれるんだろう。注文品が到着するまで、ワクワクした気持ちで頭の中が渦巻いていた。

だけど、本当に品物が届くと、あたしは躊躇した。この妄想を始めてから初めて、自分は本当にこの道を進んでいきたいと思っているのだろうかとためらった。心の中、もちろん進んでいきたいんじゃないの、答えはイエス!と叫ぶ声が聞こえていたけど、何か引っかかってて、先に進むことができなかった。結局、私は届いたものを全部、箱に入れ、クローゼットの奥にしまった。忘れてしまうんだよ、と。そして、何とかして、ネットで読んだストーリーやポルノ動画から離れることができた。男らしい自分を取り戻せて、自分が誇らしいと思った。

もちろん、そんな状態は長続きしなかった。元の自分に戻るまで、時間的には、1ヶ月くらいだったと思う。呼吸をするのを止めろと言われても、止めることなんかできない。それと同じだった。自分の性癖を否定しろと言われても、できないと思った。少なくとも、あたしのそういう性質は、すでに自分の一部になっているのだと思った。腕は自分の一部。その腕を切れと言う方が間違っている。

結局、もっと先に進みたいという衝動が戻ってきた。でも、今度は、その衝動が薄まるのを待つ気持ちはなかった。あの箱のことを思い出し、震える手でそれを運んだ。お腹の辺り、何がずしんと重いものがくるのを感じた。ただ、何があるか見るだけだよ。それで遊ぶつもりなんかないよ。そう自分に言い聞かせていた。

もちろん、あたしは自分に嘘をついていた。気がついた時には、裸になってランジェリーを着ていた。頭にはウィッグを被って、顔には不器用な化粧をしていた。そして、小さなディルドの上にまたがっていた。ビデオで見た女の子たちのように、それに乗りながら、女の子っぽい声を上げていた。

あの時だったと思う。この先、どんな抵抗が出てこようとも、どしどし踏みつけて、平らな道にして、先に進んでいこうと思ったのは。あたしは夢中になった。ひとりでいる時だけ女の子になる。それだけでは満足できなくなっていた。もっとしたい。もっと先に進まないと気が済まない。自分の人生に関わっている人たちが、誰一人、あたしのことを理解してくれなかったとしても、放っておこう。あたしは気にしなかった。そして、とうとう、もう見せかけだけの抵抗(参考)を続けられないと思い、勇気を駆り立てオンラインでホルモンを買った。それ以来ずっと自分で自分の道を選んだと思ってきた。

それでも、ためらった時がなかったわけではない。初めてホルモン剤を飲んだとき、初めて完全に女性の服装をして外に出た時、初めて男性とデートをした時、そして、初めてあたしの顔の前にペニスを出され、しゃぶってくれと言われた時……。あたしは毎回、自分の進んできた道はこれで良かったのかと自問した。でも、その迷いは長くは続かない。そして、毎回、あたしは同じ方向の選択肢を選んできた。

そして、4年目がすぎ、あたしはここにいる。裸で、かつてのあたしなら自分が追いかけていたかもしれない綺麗な女性の間に立っている。そして、ずっと、ご主人様があたしを選んでくれて、このふたりの前であたしにセックスしてくれないかと期待している。彼があたしを見て微笑みかけ、そして指で来なさいと合図を送ってくれるのを見ると、あたしはいそいそと彼の前に進み出て、これまでの自分の選択がひとつも間違っていなかったと嬉しく思うのだ。


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[2019/09/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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