Dream come true 「夢の実現」
「あなた、おちついて」とシモーヌはあたしの体を抱きながら言った。「心臓がドキドキしてるの、感じるわよ」
「ち、ちょっと……興奮してるだけ」 あたしは荒い息で答えた。興奮と言うより恐怖なのかも。多分、その両方。あたしはとうとう、ここまで来た。こんな短期間でここまで。ここまで来た過程もほとんど頭から消えている。ましてや、あたしたちの前に立つ男性をまっすぐに見ることなどできない。その気になって目をらんらんと輝かせている男性。
「その気になってる」 その言葉では言い足りないだろう。彼も、あたしや妻と同じく、全裸で立っている。男性のシンボルが船のマストのように股間から直立している。太くて大きく、固くなっているためか、ぶるんぶるんと揺れている。でも、それ以上に目を惹くのは、好色そうな笑みを浮かべた彼の表情。勃起したペニスを見なくても、その彼の表情を見ただけで、何を頭に浮かべているか手に取るように分かる。あたしの中に、嫌悪感に嘔吐したくなる部分があった。でも、それと並んで、いや、それよりも大きな部分を占めて、彼の笑みにお返しをしてあげたいと思う自分がいた。
あたしは、いったい、どうなってしまったのだろうか? 過去1年間、この疑問を何百万回も繰り返してきた。あたしの「人生を賭けた決断」のために、手術、ホルモン摂取、家族や友人からの排斥の辛さを耐えながら、あたしは、自分が本当に正気なのか、何度も問い続けた。そして、いまだに答えをひとつも得ていない。
かつて、あたしは自分を普通の男性を思っていた。そもそも、この世の中、変な嗜好を持たない人などひとりもいない。あたしも、その点、人並みに変わった嗜好を持っていた。ただ、その嗜好は背景に隠れていて、その嗜好に応じて人生のかじ取りをすることなど、一度もなかった。しかし、ある日、当時のガールフレンドが、あたしが女性化に対してフェチを持っていることを発見したのだった。彼女は、あたしのその恥ずかしい性的趣味に何か引っかかりを覚えたらしい。あたしの趣味を理解するだけでは、彼女には物足りなかったようで、彼女は、その趣味を実践するよう求めたのだった。彼女はあたしに、あたしが何度も読んでいたいくつかの物語の通りの生活をしてみるように求めたのだった。
そして、あたしは彼女の求めに応じた。本当に。始まりはとても簡単だった。パンティを履いてベッドに入ること。それだけだった。でも、それから間もなく、あたしは、仕事に着ていくスーツの下にランジェリーを着ていくようになったし、毎晩、彼女のストラップオンを受け入れるようになっていた。ホルモンを摂取するよう言われた時、さすがに、止めかかった。止めかかったけれど、止めなかった。それほど依存性のあることだった。物語を読んだり、動画を見たりすることより、ずっとずっと刺激に満ちていた。心の奥や体の芯に訴えかけるものがあった。あたしにとっては、これこそが現実だと。これこそがあたしの人生だと。
あたしは、抵抗するのを止めた。完全に、いかなるためらいも捨て去った。そして、それから1年で、あたしは完全に変身を遂げた。もはや、あたしを男性だと言う人は愚か者しかいないだろう。どんな人も、何かの拍子に、今は萎えて役立たずになっているあたしの男性の印を目にすることがない限り、あたしがかつて男性であったかもと思う人はいない。それは光栄なことだ。本当に、光栄なことだと思っている。あたしの抱いていたフェチがとうとう現実のものになったのだと。これから毎日、この光栄を感じながら生きていけると。
確かに、両親や友人、それに同僚たちにカミングアウトするのは辛かった。だけど、その辛さは、得られる喜びに対する代償として、喜んで耐え忍んだ。それも乗り越え、とうとう、望んでいた状態をほぼ手に入れた。その通り、「ほぼ」手に入れた。残るのは最後のステップ。そして、これを始めてからずっと避け続けてきたステップでもある。
それこそ、ここにいる好色を絵に描いたような男性が表しているコト。ひとつドアを閉めれば、別のドアが開く。これまで、ひとつひとつドアを進んできた。歩みだすたびに、不安は消えていった。あたしは、それをすることを欲している。それをすることを必要としている。それをしてこそ、あたしの夢が実現する。
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