クリスはジャネットの手を取って、握手をした。柔らかく温かい手。彼はセクシーな年上の女性の瞳を覗き込みながら、心臓がちょっと高鳴るのを感じた。ふと香りに気づく。陶酔させるような甘い香りの香水が、彼をそよ風のように包んでいた。クリスは頭がくらくらしてくるのを感じた。5年生の時にジェニー・ジルマンに初めて出会ったときのようだった。期末試験の後のトラウマ時期によるちょっとしたストレスからこんな風になっているのかな、と彼は思った。
急に手を引っ張られるのを感じ、クリスはハッとあわてた。気がつくと、まだジャネットの手を握っていたのだった。
「あ、すみません」
そうつぶやいて、しぶしぶと手を離した。
「トム? ちょっとこっちに来てくれない?」 クリスの母親が部屋の向こうから呼んだ。それを聞いたクリスの父がジャネットに言った。
「ちょっと失礼します。クリス? お父さんの替わりにレドモンド先生をもてなして差し上げなさい。先生は、お父さんの一番のお客さんだし、このアメリカで最高の眼科医なんだよ」
トムはそう言って妻のところへと急ぎ去った。後にはクリスとジャネットだけが残された。
「で、君はエンジニアなの?」
「いえ、厳密に言ったら、違います。まだ大学2年生になったばかりなんです」
「カリキュラムが大変な時期ね。それで? 夏休みは何をするつもり?」
「ええ、今はピザ屋で働いてるんですが、あまり時給が良くなくて。僕は、車の66シボレーを改造するため、お金を貯めてるんです」
クリスは、レドモンド博士の柔らかく盛り上がった胸に視線を向けないようにしようと必死だった。彼女が体を動かすたびに、たわわに揺れている。しかし、そこから視線を外すのは健康な若者にとっては不可能なことと言える。クリスは顔を上げ、レドモンド博士の顔を見ると、彼女は、クリスがどこを見ていたか知っているようににっこりと微笑んでいた。クリスは恥ずかしさに顔が赤らむのを感じた。
「分かるわ。学生時代はお金は大変よね」 ジャネットは同情しながら答えた。「貧乏学生ってこと? うふふ」 美しい笑顔のまま、少し笑い出しながら答える。そのため、彼女の胸はさらにたわわに揺れた。
「まあ、正確には貧乏と言うわけじゃないんだけど、車を改造するのに十分なお金を得るには、本当に何か他のバイトを探さなければいけないんです」 クリスは、沈み込みながら答えた。
「ねえ、ちょっと待って。君は、機械のことなら割と器用なんじゃない?」
「アハハ・・・ええ、まあ。何と言っても、工学の勉強をしているんですから」
「私のオフィスで手伝いをしてくれているアシスタントが、先週、背中を痛めてしまって、療養のため休暇をとったのよ。もし、君が興味があるなら、私のオフィスで少し手伝いをしてくれないかしら? 1時間10ドルを払うわ。それに私という素晴らしい人間と一緒の職場で働けることになるわよ。興味ある?」 ジャネットは笑いながら訊いた。
「わお! 是非とも!」
クリスは速攻で返事し、チャンスに飛びついた。今より少し給与が高いし、彼女と一緒のところで働けるというのも魅力だった。