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便利屋(1) [コロナ禍ストーリー] 

「便利屋」 Handyman by Daryl_Moore 出所

「ダーク、お前の選択肢はこれだ。住み込みの仕事を受けるか、さもなければ、パンデミックの間、レイオフされるか。このふたつな?」

「くそっ、俺を首にしようとしてるのか?」

「ダーク、俺はここの住居者やスタッフを守ろうとしてるんだ。お前のことじゃない」

「じゃあ、もし俺が、イヤだと言った場合、どうやったら会社に残れる?」

「レイオフされてる人に何か基金があると思うぜ。だが、それを調べるのはお前自身でやってくれ」

「まるで、同意しなかったら、俺が干乾しになっても構わないと言ってるような口ぶりだな」

「ダーク、俺たちはお前を必要としてるんだ。でもジョンには奥さんと犬も2匹いる。だから、ジョンには、週7日24時間ここにいてくれとは頼めないんだ」

ジャックは困った目をしていた。そろそろ、こっちの要求を持ち出して反攻にでるべきかな。

「オーケー、ジャック。いくらだ?」

「いくらってどういう意味だ?」

「週7日24時間、俺にここにいてほしいわけだろ。いくら追加のペイがでるんだ?」

「おいおい、お前はタダで飯が食えるし、寝泊まりできるんだぜ?」

「俺にはすでに寝泊まりする場所がある。ジョンには待機のためのカネを出してるのは知ってるんだぜ?」

「分かったよ。待機について1日あたり50だ。通常の給与に加えてな」

「何かしなくちゃいけないことが出た場合の、時間外の支給は?」

「ダーク、他のヤツに頼んでもいいんだぜ? お前たちがどんな仕事をしているかは分かってるんだ。あちこちのサーモスタットの調整とか、排水溝の詰まりを取ったり、電球を交換したりだろ? 手に負えない場合は管理会社に電話して、お前たちは座ってそれを見てるだけじゃないのか?」

「じゃあ、時間外支給はないと?」

「呼び出しがあったら、最初の1時間はフルに、その後は30分ごとに追加額を支払う。電球交換で25ドル出すなんて、かなり寛大だと思うぞ」

正直言うと、俺は呼び出しの記録を見たことがある。ジョンは普通、2日か3日に1回、1時間程度の仕事の呼び出しだ。だから、かなり良い仕事だと言える。このパンデミックについて言われていることが本当なら、どっちみち、俺は夜遊びに出かけることなどできない。

「まあ、ここにいることになると、持ち物をこっちに持ってこないといけないな」

「着替えを持ってくるだけでいいぞ。住民向けの部屋をひとつあてがってやるから。家具付きだ」

「おい、死んだ男の部屋を俺にあてがうつもりなのか?」

「あの部屋で死んだわけじゃねえ。バスにひかれたヤツだよ」

オーケー。ちょっと俺は嫌な男になっていたかもしれないな。というのも、最初その男の話を聞いた時、思わず笑ってしまったから。そいつはそれまで順調に人生を歩んできたのに、ある日、突然、地元の公営バスにひかれてしまったのだ。まるで、「いったい誰だよ、よりによって俺をこんな目に合わせるなんて」って感じに。

「ああ、でも、そいつの家族は、俺が住むと嫌がるかもな」

「そいつには家族はいなかった。お前は運が良かったんだぜ。俺たちは、その男の部屋を片付けるところだったのさ。そしたら、このコロナ騒ぎだ。そのおかげで、お前は住み込みの時に住民用の良い居場所が得られたってことだ」

「まあ、何を持ってこなくちゃいけないか知りたいから、部屋をチェックさせてもらえるか?」

「ということは、この仕事を受けるってことだな?」

「ああ、やるよ。その部屋が不快じゃないとしたらな」

その男はジョージといい、レコード業界で働いていた男だ。俺は、前からジョンにその男の話しは聞いていて、一度そいつと会ってみるべきだと言われていた。時すでに遅しということだな。ジョージの部屋は娯楽室の先にある。話しによると、大広間を作ったときに、古い社交用のスペースをスイートルームに改造したとのこと。ジョージはそこに入り、以来、ずっとそこで暮らしていたらしい。

俺たちは、年寄たちの部屋の家具がどんなものか何度も見てきてて、ガラクタだらけなのは知っていた。だから、まあ、何も期待できるわけがない。だが、俺は間違っていた。全部、北欧風のデザインの家具で美しいチーク材でできてるし、壁には本物のアートの絵。しかも、どっしりとしたオーディオ棚があり、その上にはオラクル(参考)、下にはマッキントッシュ240(参考)だ。両側には豪華そうな大スピーカー。フォンシュヴァイトケルト(参考)というメーカー。名前は聞いたことがないが、この姿からすれば、絶対いい音が出るに違いない。

ジョージには家族はいなかったかもしれないが、写真は持っていた。そう、これらの写真、命を懸けても良い写真だ。写真の多くはサイン付きだ。例えば、「君のおかげでいい音が出せたよ、デイブより」とか。ああ、こんちくしょう! デイブ・ブルーベック(参考)じゃねえか! ジョージという男には一度も会わなかったが、彼は俺の中ではヒーローになってきていた。この住み込みの便利屋の仕事、思ってたよりずっといい仕事になりそうだ。

ドアをノックする音がし、俺は我に返った。この部屋にあるお宝、他の人に見せるわけにはいかない。

俺はドアを開け、同時に部屋の外に歩き出た。ドアの先にいたジャックを押しのける形になってしまった。

「まあ、何とかなりそうだな」

「何か運び出さなきゃいけないのがあるか?」とジャックは俺の背後をのぞき込もうとしていた。

「年寄の持ち物が主だが、俺が何とかするから」と俺はドアを閉め、鍵をかけ、エレベーターの方へと歩き始めた。

「ああ、裁判所の女性は、部屋は清潔だと言ってたな。その女の趣味じゃないが、良い部屋だと言っていた。俺もちょっと見てみるべきだと思うんだが」

「また今度にしてくれるか? 俺は自分の持ち物を取りにいかなくちゃいけないから」

「明日、サインしてもらう契約書があるぞ」

「契約?」

「俺がお前に契約にサインさせないとでも思ってたのか? お前は時間外支給はなしでいいと言ったよな。それは書類にしておかなくちゃいけないんだよ」

「ああ。あ、ひとつだけ。彼の衣類はどうしたらいい?」

「バッグにまとめてくれ。全部、中古屋に売り払うことになる」

「全部?」

「今回のコロナが終わったら、中古屋がやってきて部屋の中から全部持ち出す。その代わり、こっちは代金はゼロで済むって話だ」

「1、2ドルを節約するのには頭が働くんだな」

ああ、ジャック、お前は自分の持ち物についてだけは頭が働きすぎるんだよな、と俺は笑みを浮かべた。彼のステレオシステムが消えても、誰にもバレないだろう。さあ、自分の持ち物を取りに戻るとするか。

ジョージ爺さんは天才だったな。ダイアー・ストレイツ(参考)は、俺の父親くらいの人が聞くのだろうけど、このステレオシステムだったら、今の気分、ぴったりだ。このウイスキーも気にしないでくれよ、爺さん。ポートウッド・リザーブ(参考)。ちくしょう、すいすい入ってしまうな。イエーイ、『マネー・フォー・ナッシング』だ! これが俺の新しいテーマソングだ。

「ルーム214、電球切れ」 チッ、メッセージが来やがった! バカ電球の野郎、俺のせっかくの晩を邪魔しやがって。どっかの哀れなババアが暗闇で困ってるってか? ジョンは、こういうのよく我慢できたな。俺には分からん。

「今晩は、電気を直しに来ました」

「ジョンは?」

「ジョンは自宅です。私が住み込みの便利屋です。コロナのことはご存じでしょう?」

「ああ……」 いったい俺が何をしたって言うんだ。この婦人、まるで、舐めていたキャンディを取り上げられたような顔をしている。このコロナってやつ、それを口にしただけで、人をこういう気持ちにさせちまうんだな。

「入ってもいいですか?」

「ええ」

「バスルームの電球ですよね?」

「そうです」

俺はバスルームに行ったが、電気は全然、問題なかった。何でもねえじゃないか。

「おかしいわねえ、さっきは点かなかったのに」

「よくあることですよ。もし、また具合が悪くなったら、連絡ください。ひょっとするとスイッチに問題があるのかもしれません」 丁寧な応答だ、ダーク。丁寧に。

「ありがとう。ジョンは戻ってくるんでしょ?」

「ええ、この騒ぎが全部終わったら」

「すぐに終わるといいわね。本当にありがとうね」

婦人はそう言ってにっこり微笑んだ。変な感じがした。それに、笑顔になったら、彼女の印象が変わった。俺は年配の女には関心がない。俺はビーチで日光浴をしてるのを見てるし、その際、見たくもないモノを見てしまっている。ただ、彼女の笑顔は良かったし、白髪混じりの髪(参考)も良かった。俺、塩コショウの味付けが好きだし。

ランダムにアルバムを選んで、聴くのは楽しい。ルーム214から戻った後、俺は椅子にゆったりと座って、ウイスキーをすすりながらジョー・コッカー(参考)の『ユー・アー・ソー・ビューティフル』を聴いていた。

ふと、ミス214が頭に浮かんだ。ちくしょう。あの婦人、バスローブ姿だったぞ。バスローブだけの格好。ジョンよ、あんた、エロおやじなんだな。電球は切れていなかったんだ。最初から。

ジョージもいい加減な爺さんだな。パソコンにパスワードをかけていなかった。もっとも、開けてみたものの、予想外のことは何もなく、かなりつまらない感じがした。まあ、ブラウザの履歴はちょっと興味を引いたが。ジョージ爺さんはライブ・ポルノを見てすごすのが好きだったらしい。俺も、リンクのうちの一つを試してみた。年配の女が男の股間に顔を埋めようとしてるところだった。まあ、俺の趣味ではない。確かに、その女、それなりの仕事はしていたが、俺の好みはこのリンクじゃない。

結局、1時間ほど無駄に過ごしてしまった。ああ、俺もポルノは好きだよ。若い男で好きじゃないなんて言うヤツがいたら、お前、何者だよって思う。まあ、確かに、出てる女の大半は俺の守備範囲の外の女たちだし、俺自身、アレは馬並みってわけじゃない。だけどホームメイドの動画も割とあった。「ご近所に住んでるあの女」ってタイプの動画だ。俺の好みはこれだ。そういう女だと、少なくとも、俺にもヤレるチャンスがあるかもしれないと思わせるところが良いんだよ。よく、人が変われば好みも変わると言われるが、そして、それは別にポルノのことを言ってるわけじゃないと思うが、ポルノの好みについても同じことが言えるはずだと思う。

「ルーム312、ヒーター故障」 またメッセージが来た。まあ、さっきのとは違って今回のはちょうどいい時に来たけどな。というか、ちょうど俺がイッた時に来たと言うべきか。

「今晩は? ヒーターのトラブルですか?」 

ドアが開いたとたん熱気が顔に当たってきた。次に気づいたのは、彼女が、文字通り、よく言う「ヘッドライトに照らされた鹿の目」をしていたということ。312婦人は素早く身をひるがえし別の部屋に駆けていった。

「ごめんなさい。別の人が来ると思ってて」と彼女は寝室から声をかけた。1分くらいすると、今度はハウスコート(参考)を羽織って出てきた。さっきは慌てていたが、彼女は俺を出迎えたとき、テディ姿(参考)で、ほとんど裸に近い格好だったのだ。ちくしょう、もっとよく見ておくべきだったぜ。ちらっとしか見られなかったが、はっきり言えることは、この人のカラダはビーチでごろごろしているオバサンたちのカラダとは全然違うということ。ハウスコートを着てる今でも、かなり良い脚の線をしているのが分かる。

「ヒーターの件で電話があったはずですが?」

「ええ。ただ、あなたが来るとは思ってなかったから」

ちくしょう! もうひとりか? ジョンには、「お助け」を待ってる年配女性を列をなすほど抱えているってことか?

「ここのところ、ジョンは自宅待機してるんです。今の住み込み便利屋は私の担当になってます。ご存じでしょう? ウイルスの件で」

「ああ……」

がっかりしてため息をつく女が、またひとり。まあ、ジョン、これはお前に任せてやらなくちゃな。お前、ここのオバサンたちを幸せにし続けていたに違いないだろうから。

というわけで、俺はサーモスタットの調整をした。終わって部屋に戻ると、カウンターの上にねじ回しが置いてあるのが見えた。まさにサーモスタットの調節をするのにぴったりのドライバーだ。くそっ、この人、自分で温度を上げてたんだな。多分、サービスマンを相手に遊びたかったのだろう。目に見えるようだぜ。「ハーイ、ジョン。あたし、カラダが熱いの。あなたの持ってる温度計であたしのをちょっとチェックしてくれない?」ってな、そんなことだろうよ。ああ、ヤバいな。とっととここから出なくちゃいけないな。

「では、私はこれで」 落ち着け、息子よ、落ち着くんだ。今は野獣は眠っている時間だ。

「あら、せっかく来てもらったのに何も出せないわ。コーヒーかお茶でも。それとも……」 と彼女は笑顔で言う。

ちくしょう、俺に迫ってくるのか? ダメだ、俺はずいぶん長いことエッチしてないんだから。

「すみません。もう戻らなくちゃ……」 ちっ、これじゃ、俺は、まるで理科の先生の前で股間を膨らませて立ってる臆病な生徒みたいじゃねえか。そう言えば、ピーターソン先生は今頃どうしているかなあ。

部屋に戻り、横になって音楽を聴いていた。音楽に身をゆだね、ちょっとウトウトしかけたところだった。

「くそっ、そうか!」

俺は跳ね起き、ジョージのパソコンに走った。

履歴をチェックする。

あった! やっぱり!

ポーズを押して動画を止めた。ミス312が誰かのちんぽを口に加えて俺の方を見ている。

ちょっと待てよ。俺は寝室に走った。「ジョージ爺め!」

壁にかかった絵が、動画の背景に映ってた絵と同じだった。ミス312は男遊びが大好きなようだ。いや、別に俺は彼女をとがめているわけではない。なんだかんだ言っても、彼女くらいの歳になったら、人から何か言われるものじゃない。でも、ジョージ爺さんよ、あんたが、この動画をアップしたのか?


[2020/06/03] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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