「隔離への順応」(3)
「うげぇ」と妻のヘザーがボクの半立ちを指さして言った。「まだ、それ、あるの? きもっ。何とかしてよね」
数週間ぶりに勃起したというのに、彼女は見たくないモノを見たような反応をした。ボクは激しく落ち込んだ。彼女に強く言われて、あのバカげたメイド服を着始めてからずっと、ボクは自分が男であると自覚するのが難しくなっていた。その不安感は寝室で如実に効果を発揮した。でも、そういう機能不全になった人に向けられる心配とか怒りとか、その他、普通の人が向ける反応とは違って、ヘザーは安心した顔をしていた。まるで、厄介な義務をようやく果たせたような顔をしていた。
もちろん、ボクと彼女はボクの不能を別の方法で埋め合わせた。セックスは重要よと彼女は言った。ボクは男性として当然の行いができないことから、他の方法で彼女を喜ばす方法を会得しなければならなかった。つまり、ボクと彼女の性生活は、主に、ボクが彼女の脚の間に顔を埋める行為に変わったということ。終わるまで何時間と思える時間がかかるのが普通だった。もちろん、ヘザーはボクの行為に対してお返しをしてくれた。乳首をいじるとか、指をボクの未踏地のアヌスに滑り込ますとかで。ボクのペニスは一貫して無反応のままだった。
これはよくないと思い、ボクはこれを変えようと心に誓っていた。失われた男らしさ。そのいくらかだけでも取り戻したい。ボクは、ネットであの青色の錠剤、つまりバイアグラのまがい物を注文した。そして分かった。ボクがほとんど勃起できなくなっていたのは、その薬のせいだったと。ボクはひどくがっかりした。原因が分かっても、依然としてほぼ萎えたままの状態だったから。ではあるけど、久しぶりの勃起で、ひょっとすると妻と本当のセックスができるかもしれないとボクは天にも昇る気持ちだった。
でも、彼女はそうは思っていなかった。それは明瞭だった。そして、そのことはボクの心に突き刺さった。
「ねえ、ボクたちアレをしてもいいと思ってたんだけど……分かるよね?」
ヘザーは、一瞬、何を言ってるか分からないといった困惑した顔でボクを見つめた。そして、急に何のことか分かったのだろう。「ああ……アレ?」
「うん、アレ」
「ちょっといい? フランチェスカ」と彼女はボクに近寄り、両肩をグッとつかんだ。「無理……正直、無理……だと思う。あたしは、アレはもう望んでないの」
「で、でも、キミはボクの妻なわけだし……」
「そうかも。でも、あなたはあたしの夫ではないわ。もはや、違う」
「な、何を言ってるか分からないよ」
「いいえ、分かってるでしょ? 今のあなたはヘルパーなの。それにもっと言っちゃうと、自分の姿を見てみて? 間違いないと思うけど、胸が膨らんできてるでしょ? もう紳士服は着てない。1ヶ月以上も。それ以上かな? 今はあたしたちふたりとも正直になって、明らかなことを認めるべきじゃないかしら」
「あ、明らかなことって?」
「あなたは女だってことよ」と彼女は言った。「少なくとも、シシーだってこと。どっちなのか、まだあたしには分からないけど。でも、はっきりさせられるわ。ふたりで力を合わせれば」
「ぼ、ボクは別にそんなこと望んでないけど……」
「望んでるか否かの問題じゃないの。現実がどうなってるかの問題なの。そして、あたしたち、その現実に対処する以外に選択の余地はほとんどないのよ。さあ、身支度をして、メイドの服装になりなさい。自宅待機の制限が解除されたら、お友達を家に呼ぼうと思ってるの。その時にはあなたに給仕をしてほしいわ」
「は、はい、わかりました、ヘザー様」 ボクは自動的にそう返事をするようになっていた。
つづく
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