スティーブはソファ脇の側卓からリモコンを取り、テレビに向けた。テレビのスイッチを入れた後、別のリモコンを取り上げる。このリモコンは彼のデジタル・ビデオのコントローラだった。デジタル・ビデオはすでに再生モードにセットされており、スティーブが望む再生箇所に合わせてあった。デジタル・ビデオはケーブル類の箱の脇に置いてあったので、部屋にいる誰もその存在に気づいていなかった。
スティーブには、ビデオをDVDに変換してもらう人を探す時間がなかった。彼自身、それを行うソフトウェアを持ってはいたが、DVD変換の経験が非常に少なかったし、万が一、テープの中身を失ってしまうことだけは避けたかった。この日、録画したものをスティーブがみんなに見せるつもりなら、カメラをビデオ・プレーヤーとして使うという方法しかなかったのである。
スティーブは、バーバラを鋭い目つきで睨みながら、「再生」のボタンを押した。
大型テレビスクリーンに映ったサンダーバードはすでに川の水に入ったところだった。スティーブの乗ったピックアップ・トラックがバックで坂を登っているところだったので、画面は酷く揺れていた。だが、画質も音声も、完璧にクリアである。静かな居間で見ている者には、エンジンの轟音は耳をつんざくばかりで、スティーブは、思わず音量を下げた。トラックが後退を止めると、画面は安定した。ドアをバタンと閉める音が聞こえた。画面の左からスティーブの姿が現れる。カメラから離れ、前方に歩いていくところだった。ほとんど水際の近くまで歩いていく。
次の瞬間、暗い水の中に沈みかかった車の助手席の窓からバーバラが這い上がってくるのが映った。その後に運転席側から男が同じく這い上がってくる。2人とも顔や体は泥だらけで、乱れきった姿でよたよたと岸に歩いてくる。バーバラはバランスを保とうと、両腕を激しく振っていた。しかし、それも虚しく、つまずき転び、肩まで川の泥につかってしまい、必死に這い上がろうとする。川底の穴とから這い出て、浅瀬に来たものの、何か取り戻そうと、再び川の方に向き直った。屈みこんで、泥水の中からハンドバッグを引っ張り出し、高く掲げた。
スティーブは再生を止め、巻き戻しボタンを押した。
「とても面白いビデオだね。そう思わないかな、バーバラ?」
優しい口調で語りかける。そして、画面に映る数字が望む数値に達したのを受けて、巻き戻しを止めた。
「最低!」 忌々しそうにバーバラが言った。