「椅子を引いて座りなさい。君たちはコーラがいいかな? ジュースや牛乳もあるが」
ふたりとも牛乳を望んだ。「私はマッケイ・ノースだ」 牛乳を注ぎながら名乗り、牛乳をカウンターの上、ふたりの前に置いた。「飲みなさい」
「あたしはマギー」と大きい方が言った。「マーガレットを短くした名前。この子はストークリイ。本当にこれ全部食べていいの?」
「もっと欲しけりゃ用意するが? 朝になったら作ってやろう。午前2時には料理したくないからな」
「いや、これでいいよ。ありがとう」とストークリイが言った。
マギーは私のことを疑い深そうな目で見ていた。「何かしてもらおうってことか? あたしたち、イヤらしいことはしないよ」
私は笑った。「いや、私もそれは御免だ。君たちのどっちかが何か私に下心を抱いているようだったら、がっかりするだろうね」
明らかに、ふたりとも私のユーモアを理解していなかった。「私は幼い女の子には興味がないよ」
ふたりは私が「幼い女の子」と言ったことが気に食わないようだったが、ともかく、ふたりは食べ始めた。飢えた動物のような食い方だった。「おい、ほら、もっと落ち着けよ。食べ物は逃げたりしないんだから。チキンはすでに死んでるし、ジャガイモは足が速いわけがない。そんな調子で食べると腹をこわすぞ」
今度はふたりともくすくす笑ってくれて、多少はがつがつしなくなった。「君たちはどこに住んでるんだ?」
「ひとブロック先に空き家があるんだよ」とマギーが言った。「マットレスと上に掛けるものを見つけた。だけど、薬物中毒が入ってくるんじゃないかって心配なんだ。あいつら、空き家だと分かると、すぐに入ってくるから」
「今夜は温かいきれいなベッドで眠りたいか?」
ふたりは、またも怪しむ顔をして私を見た。
「アハハ。私のベッドではないよ。予備の寝室が3つある。まあ、確かに予備のベッドも私のものだが。言っている意味は分かるよね?」
ふたりは引きつった笑い方をした。「あたしたちおカネ持ってないよ」とストークリイが言った。「カネは払えない。空き缶集めはしてるけど、稼いだカネは全部食い物に使うから」
「いや、別におカネを払ってもらうつもりはないさ。カネを払えなんて言ってないだろ?」
「じゃあ、なんで? なんでおじさんはあたしたちにそんなに親切なんだ? マック……」
「呼び方はマックでいいよ。みんなそう呼ぶし」
「どうして親切にふるまってるんだ、マック?」
「別に『ふるまってる』つもりはないが。私の母親に訊いてみるといいよ。私は優しい男なんだ」
それを聞いてふたりは笑顔になった。いい笑顔だった。私はふたりをもっと笑わせたいと思った。「もし、私が君たちの境遇だったら、やっぱり、誰かに優しくしてもらいたいもんな」
ふたりは私の言葉の意味を考えたようだった。「そのチップス、少しもらってもいい?」とストークリイが訊いた。私はポテトチップスの袋をふたりの方へ押した。ふたりともサンドイッチを頬張ってるにもかかわらず、同時に手を伸ばした。私はポテトチップスはもう充分だ。ふたりは牛乳を飲み干したが、まだ飲み足りない様子。ふたりにお替りの牛乳を注いで上げると、それも一気に飲み干した。驚いたが、ふたりとも皿に盛ったものをきれいに平らげたし、野菜も残らず食べた。本当にお腹がすいていたに違いない。
「もう寝る時間だな。ふたり、それぞれ、自分のバスルームがある。そこの戸棚には歯ブラシやヘアブラシなんかがそろっている。薬棚にはアスピリンや腹痛薬や歯磨き粉やデンタルフロスがある。他に何か必要なものがあったら、言ってくれ」
「ドアに鍵をかけてもいいよね?」とマギーが訊いた。
「もちろん。でも、私が求めたら、ある程度の時間はドアを開けておくように」
ふたりとも変な顔して私を見たが、ふと、マギーのありえないほど緑の瞳がきらりと光った。「あたしたちが何か盗むと思ってるんだよ」と彼女は妹に言った。「あたしたち、何も盗まないよ、マック。あたしたちを信じなくてもいいけど、あたしたちもあんたをあまり信頼しないから」
私は思わず笑いだしてしまった。「オーケー。相互に不信状態でいるわけだ。いいよ。そのうち、私を信頼できると分かるだろうから。私はね、美しい女の子を傷つけることなど滅多にないんだよ」
それを聞いて、ふたりともパッと明るい笑顔になった。「美しい」と言った部分に気分を良くしたのだろう。ふたりは私の後に続いて廊下を進み、部屋に入った。ふたりが入ると鍵を締める音がし、それを聞いて、私は笑顔になった。
自分の寝室に入り、ベッドに横になった。しばらく眠らずに横になっていた。あの女の子たち、どうしよう? どうして、うちのゴミ缶を漁っていたのだろうか? どうして、ふたりだけでいるのか? 親はどこにいるのか? 明日の朝になったら、その答えを聞くことにしよう。