「仕事はどうだった?」
カレンの一日がどうだったか、純粋に話しを聞きたかったから訊いたのだが、実質、彼女が僕に訊きたがっている不可避の質問を先延ばしするためにしたような質問だった。
「今日ね、あたし赤ちゃんを取り上げたのよ!」と妻は興奮した様子で言ったが、少し気まずかったのか、すぐに落ち着気を取り戻した。「それが今日のハイライトだったわ。その他は? 大半はいつもの仕事。排泄の処理とか、分かるでしょ? 1件、仕事場での怪我の治療があった。普通の怪我だったわ」
僕は微笑んだ。彼女が医療関係の仕事についたのは、出産を手伝うことをしたいという最終目標があったからだと僕は知っていた。そして、なぜ彼女がそれをしたいのかも知っていた。
「そう。じゃあ、良い一日だったんだね?」
カレンも微笑んだ。「ええ、良い一日……今日は仕事探しはどうだった?」
僕が避けていた質問がこれだった。僕は急に食欲がなくなり、溜息をついた。「何もなかった。第2種運転免許を取るつもりになれば別なんだけど。またダンスの仕事に戻ろうかとさえ思ったよ」
妻は顔を曇らせ、ほとんど食べ物がなくなった皿に残ってるご飯つぶを指先で拾い始めた。僕は自分の皿から残っていた寿司を彼女の皿に移してあげた。
「トラックの運転手はしてほしくないわ。そうなったら、あなたはいつも留守になってしまう。それよりもっと嫌なのは、ストリップの仕事に戻ること。あの当時、あなたがお相手しなくちゃいけなかった女たち……あのアザの数々、今でも忘れないわ」
僕も忘れていない。しょっちゅう、強くつねられ、後にアザが残った。その痛みを隠しつつ、つねってきた女性に愛想よく笑顔を見せなければならないのだった。「ああ、あちこちアザだらけになったなあ。でも、少なくとも、帰宅するときは給料を持ってこれたんだけどね」
カレンは寿司の残りをきれいに平らげた後、立ち上がって僕の手を握り引き寄せた。僕も立たせようとする。「カウチに一緒に座ろう。足を上げたいの。でも、この件についてあなたと話しもしたいから」
妻はカウチの端に座り、僕は真ん中に座って膝を叩いて見せた。
「足をここに乗せて」
カレンはこの家におカネを運んでくるただ一人の人だ。一日中働いてきた彼女の足を擦ってあげることくらいしか僕にはできない。
靴を脱がし、両足の土踏まずを揉み始めた。「じゃあ、お話したいんだね?」
僕の両手で足が癒され、彼女は唸り声をあげた。「ちょっとね。もしかすると……あなたは働かなくてもいいかもと思ってるの。今はあたしがかなり稼いでいるし、あなたはダブルワークをして、あたしを医療学校に通わせてくれた。あなたは、しばらく、仕事をしないでいてもよい資格があるわ」
僕は顔をしかめながら、彼女のふくらはぎへと手を移動した。「一日中、家にいられないよ。何をしたらいいんだろう?」
「もう、今していることは? 家に帰るときれいに掃除されてて、夕食もできてる。これがあたしにとってどんなに嬉しいことか、いくら言っても言い切れないわ。今夜のステーキ寿司もすごく、すごく美味しかった」
「でも、君が主夫なんかいらないと思ったらどうなるのかな? 職場にいる野心的な医師とかの方が君の好みになるんじゃ?」 僕にとって一番大きな不安は、彼女が僕を負け犬と思い、誰かもっと……少なくとも誰か仕事をしている人と一緒になるため、離婚を決意するということだった。