カレンは熱情の化身そのものになった。それが、とうとう子供が持てるという思いによるのか、僕に何度も劣等感を感じなくてもいいと宥めようとしてのことなのかは分からない。でも、どんな理由であれ、その夜の彼女はこれまでにないほど積極的だった。
ベッドに座る僕に挑みかかるように彼女は唇を寄せ、舌で淫らに僕の口の中を探りまわり、その後、僕の胸に両手を当て、そして僕を押し倒した。ベッドの上、僕は膝から上の部分、仰向けになっていた。
カレンは自分が服を着ていることなど気にせず、素早く僕のズボンと下着を引きずり降ろした。最後まで脱がすのももどかしかったのか、僕の左右の足首は途中まで脱がされたズボンや下着が丸まって、縛り付けられているような形になっていた。そんな姿の僕の勃起を、彼女はパクリと咥えこんだ。
たいていの男たちはどうなのだろう? たいていはフェラチオが好きなのだろう。でも、僕は、10代のころだったと思うけれど、繰り返しセックスできる相手を得るには、愛し合う場面において、与えられる側ではなく、与える側になるのことだと考えるようになっていた。その考え方は僕の本質部分に染み込み、いつしか僕の人間性の一部になっていた。だから、僕は、いかに気持ち良いことでも、単に快楽を与えられるだけでは、居心地が悪く感じる。どうしても、そのお返しをせずにはいられなくなる。
カレンは僕のそんなところも良く知っている。
僕はなんとかしてシャツを脱いだ。「き、君も……うわっ! 君も服を脱いだら?」
カレンは、僕の固くなったペニスから口を離し、僕の目を見てにんまりした。床に正座する格好で僕の脚の間にいて、片手でしごき続けながら、こっちを見ている。
「まだダメ。今はあたしにあなたを気持ちよくさせてて。今夜は、最後まであなたを主人公にするつもりなんだから。あたしにとってあなたがどれだけ大切な人か、どれだけ愛しているか、示したいと思うの」
彼女が卓越したフェラチオを再開するのを受けて、僕はもたげていた首から力を抜いて、頭をマットレスに倒した。彼女が特に求めた場合を除いて、僕は両手を彼女の頭に添えることはしない。だけど、セックスの場面では、僕はとてもこまめに手を動かすタイプだ。触れたり、擦ったり、愛撫するのが好きなのだ。だから、この時は、決して触るまいと、精いっぱいの意志の力を使って、両手を体の両脇に保ち続けた。
普通は、僕も同時に彼女のアソコを舐めるので、妻は気が散り、能力を十分に発揮できないのだけれども、実際、彼女は口唇愛撫について言えば、大変なスキルの持ち主だ。どう吸って、どこを舐めるかをちゃんと知っている。短時間で僕をイカせたいと思ったら、数分で僕をそこに至らせることができる。でも、今夜の妻は、そこに至る時間を長引かせようとしていた。
彼女はとても長い時間、ねっとりと愛してくれた。ゆっくりと吸い込んでは出していく動き。時々休んでは、唇で挟み込むようにしてペニスの底辺部を上下に擦ったり、睾丸を優しく吸ったり舐めたりした。
献身的な愛撫を受けながら、ふと、思った。カレンは意図的に今夜のこの経験を堪能しているのではないか、と。僕の分身が消えた時のために、思い出作りをしているのではないか、と。僕はまだWイェックスを服用すると明言はしていなかったが、彼女には分かったのだろう。もう結論はとっくに出ていると。いったん彼女が何かについて決心をした後は、僕がそれに異を唱えることは滅多にない。実際、彼女の方が僕よりはるかに賢いし、僕は、ずいぶん前から、彼女が十分検討した場合は、どんなことでも、たいてい彼女の方が正しいという事実を受け入れていた。加えて、僕は本当に子どもが欲しかったし、Wイェックスしか僕たちにはそのチャンスがないと思われた。
しかし、妻が僕の射精をさらに先延ばしさせるには、長い時間、頑張りすぎていて、その瞬間は差し迫っていた。
「カレン、もう、いきそうだよ!」
彼女は、僕の勃起の先端部分3センチくらいだけを口に咥え、頭を上下に振り始めた。小さく「んー、んー」とハミングし、僕を見つめながら。その表情は淫らな性欲の顔ではなかった。そうではなく溢れ出る愛情の顔だった。こんな格好で、こんな行為をしているのに、その顔の表情は、それにふさわしい顔つきじゃないと言ってもおかしくなかった。
僕は声を立てず、射精した。10代のころから、自慰をしても声を出さないでいたせいか、セックスの時も僕はほとんど声を出さなくなっていた。これがカレンには理解できなかったようで、分かってもらうまでずいぶん時間がかかった。単に、たわごとや下品な言葉を言ったり叫んだりしなかったからと言って、楽しんでなかったということにはならないのだと。
僕は彼女に出せるものはすべて出し、彼女もそのすべてを受け止め、飲み込んだ。そして唇と舌を使って、過剰なほど敏感になっていた僕のペニスをすっかりきれいにしてくれた。
少し休んだ後、僕は足からズボンを蹴り飛ばした後、ベッドの上、普通に横たわる姿勢になるべく、ベッドヘッドへとずり上がった。その間、彼女は服を脱いでいた。妻の着ているメディカル・スクラブは、彼女の目を見張るボディを覆って隠してしまう点で、人類に対する犯罪と言ってよい。