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浮浪者 (7) 


ようやくブリイが口を開いた。「マック、あたしがあなたを愛してることは分かってるわよね?」

「ああ。僕も君を愛している」

「あなたのお母さんを愛してるとか、そういう意味ではない。男女の関係で、あなたを愛しているの。あのシダー・ポイントでの一日以来、ずっとあなたを愛してる。あたしが愛したのは、そしてこれからも愛するのはあなただけ。口には出さなくても、あなたを信頼している。あたしと結婚したことを別にすれば、あなたについてのすべてを愛してる。あたしがどういう人間かは分かってるわよね。あたしは自由でいるのが好き。責任も重荷もない、あたしを縛り付けるものがない状態が好き。あたしは仕事も人生も愛してる。あなた以上に愛してるわけではないけど、別に使途ごとあなたのどちらかを選択しなければならないことでもない。あなたはグラニーと同じくらい誠実。あたしたちは互いに理解しあっている。あたしはあなた以外の男とはセックスしないし、したこともない。それはあなたも知ってるはず。あなたはいつもあたしのことを理解してきた。だからこそ、これから言うことは、とてつもなく変なことに聞こえるかもしれないの」

「おおっと! まるでこれからイヤラシイことを言われて驚かされそうな気配だな」と僕は笑った。

彼女は「あんたってバカね」と言いたげな顔をした。

「ええ、多分そう思うかも。あのね、あたしと結婚してくれない、マック?」

飲みかけのワインを気管支に誤飲して死ぬかと思った。しばらくむせた後、直ったものの、僕は口をあんぐり開けたまま座っていた。

「間抜けのふりをするのはやめて、返事を聞かせて!」

「ありえない!」 ようやく僕は返事した。「どうしてだ、ブリイ? またお互いをみじめにしあうのか? 1ヶ月も経たないうちに、互いにいがみ合うことになるぞ。今の僕たちの関係のどこが問題なんだ?」

「何も問題はないわ。これはあたしたちとは関係ないこと。これは、あの可愛い、地球上で最も愛らしい女の子たちに関係することなの、マック。あたしはあのふたりがすっかり大好きになったわ。あなたがあたしを招待したあの夜に、あなたはあたしの人生を完全にひっくり返してしまったの。ふたりはあなたに会いたがってるわよ。ふたりとも、毎晩、あたしに泣いて懇願するの。あなたに会わせてって。問題はというと、あたしもふたりを手放したくないということ。ふたりと一緒に暮らしてから、いろんな楽しいことや腹立たしいことがあったけど、こんなに気持ちが揺れ動いたことは、これまでの人生で一度もなかった。で、あたしもあなたも、安定した家庭環境を作ってはいないでしょ。正常な心を持った判事なら、あたしたちのどちらにもあの子たちを預けることはないわ。でも、もしあたしたちが夫婦なら、速攻でふたりを預ける判断をすると思うの。だから、あたしがあの子たちと暮らしたいと思ったら、あなたを巻き込まないわけにはいかないのよ。あなたも、あの子たちと暮らしたかったら、あたしに我慢しなければならない。それ、あたしたちにできないことかしら、マック? あたしたちはセックスフレンドとしては最高のカップルだし、あたしはあなたを死ぬほど愛している。だから、あたしをイライラさせるのを避けることはできない?」

「どうかなあ。僕も嫌な人間だけど、君も同じくらい嫌な人間だよ。酔っぱらって帰ってくる。仕事以外のことについては、いつも時間を守らない。それに、そもそも家に帰ってこないし、電話の連絡もしない。ねえ、ブリイ、僕たちはそういう生活をしてきてて、その件については、もう済んだことになっているんだよ」

「ええ、分かってる。でも、重要なのは、今は違ってるとしたらどうなのかということ。今のあたしは、早く家に帰りたくて待っていられないほどなの。遅くなる時は、いつもふたりに電話を入れているし、ふたりを預かってからは、一杯もワインを飲んでいない。自分がこんな気持ちになるとは夢にも思っていなかったわ。だから、あたしと結婚して、マック。あたしにチャンスを与えて。あたしもあなたにチャンスを与えるから」

「いろんなことを話し合わなくちゃいけないと思う」

「だから、話し合ってよ。あたしたち、いま何をしていると? あたしは意味もないことをべらべらしゃべっているだけと思ってるの? 何をしなくちゃいけないかを言ってみて。あたしから言ってほしい?」

僕は残ってたワインをぐいっと飲み干し、ウェイターにお替りの合図をした。

「ああ、言ってみて」と僕は彼女に言った。


[2020/07/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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