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浮浪者 (10) 

マギーを抱っこしながらちょっと後ろを見て、あることに気づいた。

「バンが1台、僕たちをつけているよ」

「ええ、あたしたちのスタッフが乗っているの」とブリイが答えた。

僕は怪訝そうに片眉を上げた。

「ええ、分かってるわ。あたしがいろんなことを当然とみなして進めてるってことはね」と彼女はにんまりした。「マギー、ストークリイ? マックがイエスって言ったわよ。あたしたち、また夫婦になって、あなたたちの親になるのよ」

ふたりは息をのみ、そして絶叫した。「ほんと、マック?」とマギーが言った。「ブリイは本当に嫌な女じゃなかった。マックの言う通りだったよ。あたしたちブリイが大好き。とても優しくしてくれてるし。たくさん新しい服を買ってもらったんだ。それに、この素敵な学校にも入れてくれたんだよ! あたしたち、ふたりにとってものすごく自慢できる子になって見せるからね! 絶対がっかりさせないって約束するわ」

「あなたならそうなるって、あたしもマックも分かってるわ。気にしなくていいのよ」とブリイが言った。

僕はちょっとショック状態だった。何か言おうとしたが、何も言葉が出てこなかった。

「マック、大丈夫?」とストークリイが訊いてきた。

ブリイがアハハと笑った。「大丈夫じゃないわね。彼、完全にパニック状態になるはず。彼がこれまで注意深く秩序づけてきた世界が、どんどん崩されていくんだから。今の彼の家は、何もかもピカピカで、何もかも正しい場所に整理されている。でも、これからは、シャワーには女の子のパンティがぶら下がることになるし、持っている本は勝手に動かされるし、コーヒーテーブルには飲み干したペットボトルが放置されるでしょうね。彼はカンカンになると。正直言って、彼がどうやってグランビルと仲良く暮らせているのか分からないの。あたしたち、マックがカウンターにパンくずが散らかっていても気にしなくなるよう、彼のことを愛してあげなくちゃダメみたいよ。あたしたち、それできるかしら?」

「あたしはできるよ」とマギーが笑った。「あたしたち、となると、分からないけど」

「あ、彼は可愛い女の子には目がないの」とブリイはふたりを安心させた。「あなたたちは、彼に向けて、愛らしく瞬きして見せるだけでいいわ。そうすれば、彼、とろとろに蕩けちゃうから。でも、あたしには怒りをぶつけてくるかも。そうなると、あたしも彼に腹を立ててしまうの。あなたたちふたりは、そういうことになっても、あたしとマックのことを愛さなくちゃいけないのよ。大丈夫?」

僕は唸り声をあげた。

「いいかな。僕は実際にはこの件について何も同意していないんだよ。ブリイは、いつもの通り、台風のようにコトを進めていて、僕たち皆を巻き添えにしているんだ」

「マックはブリイのことを愛している?」とストークリイが訊いた。

「愛しているよ。彼女が町の向こう側に住んでる限りは」 僕は何とか分かってもらおうとした。

「ええ、でも、あたしたちみんな、一緒になるためには、一緒でいる必要があるの」とマギーが言った。

その可笑しな言葉に、皆が一斉に噴き出したし、僕も笑わずにはいられなかった。その考えは馬鹿げていた。僕はどうして、こんなふうにコントロールを失ってしまったのだろう。いつもの通りだけど、ブリアナは支配権を握ってしまった。みなしごになっていた女の子たちを助けてあげようとちょっと力を貸したつもりが、あれよあれよという間に、元妻との再婚と養子縁組の話しへとつながってしまった。あんなに小さなことだったのに、気づかぬ間に人生のレールが自分の関わっていないところで大きく変わってしまっている!


[2020/08/09] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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