「ブリイについてはマックの言う通りだよね。ブリイはすごい。時々、圧倒的になる。何かをすると決めたら、周りの人をみんな巻き込んでやっちゃう」
僕は笑った。「分かってる。そうだよね。彼女はずっと前からそうだった。彼女と初めて会ったのは、大学の同じクラスのグループで遊園地に遊びに行った時だった。彼女は、ジェットコースターに一緒に乗る相手は僕にすると、勝手に決めてしまった。実際、僕は他の女の子が目当てで参加したんだけどね。ともかく、ブリイにぐいぐい引っ張られていろんな乗り物に乗って遊び、結局、グループの他の友だちとは、その日、一度も顔を合せなかった。ずっとブリイに引っ張りまわされて、彼女とふたりっきり。当時、僕も彼女も同い年の20歳。僕はその日のうちに彼女に恋してしまった。ブリイはウイルスみたいなものだよ。人に侵入して、人生を乗っ取ってしまう。僕たちは、結婚してたった1ヶ月で、最初のケンカをしてしまった」
「どんなことでケンカしたの?」
「話を聞いたらバカらしいと思うだろうけど、靴のことでケンカになったんだ。彼女は僕の靴をいつも移動して、僕の靴の上に自分の靴を置いたんだ。だから、僕は彼女の靴の山を掘り分けなければ、自分の靴を見つけられなかったし、彼女のヒールで僕の靴は傷だらけにされたしね。ブリイは僕のことを細かすぎるとか、命令的だと言っている。多分、ブリイは正しいのかもしれないけど、彼女に靴をクローゼットの中、彼女の持ち物の横のところに置いておくように頼むのは、そんなに細かいことなのかなあ。そこから一気に互いの感情が燃え上がってしまい、僕は彼女をカンカンに怒らせたし、彼女は僕を気が狂わんばかりにさせた。僕は明日の行動について計画をもって生きている。ブリイは完全にその場その場で行動する。彼女はそういう人間なのだし、そんな彼女が僕は好きなんだけど、でも、同時に、彼女のそういうところが一番頭にくるところなんだよ。ブリイの方も、きちんと計画性を持っている僕が好きなのだろうけど、まさに、その点が彼女を怒らせる点でもあるんだ。そんな相反したことが、えてして衝突してしまうものなんだけどね。そんなわけで、僕とブリイは互いに神経を苛立たせてしまう関係になってしまったわけ」
ストークリイはくすくす笑った。「マギーとあたしも同じようなことでケンカするよ。マギーは人生の半分を失くしたものを見つけようとして過ごしてる。マギーは朝起きると、その瞬間に何をするか決めてしまう。マックとあたしはちょっと変えなきゃいけないと思う。少しだけでいいから流れに合わせるようにしなきゃいけないんじゃないかなあ。ブリイとマギーも変えなくちゃいけない。ふたりは、あたしたちはモノがあるべきところにあるのがいいと思ってることを理解しなくちゃいけないと思うよ。マックは、みんな、それができると思う?」
「分からないな。そうしなくちゃと思う理由をみんな感じてないから。ブリイと僕は本当に奇妙な関係にあるんだ。僕は今まで以上に彼女のことを愛している。彼女も同じように感じていると思う。彼女は話し合いをするタイプじゃない。行動するタイプだ。僕と彼女は、結婚した時よりも近しい間柄になっているし、僕は彼女が好きだ。結婚した時は、それほど好きではなかったと思う。僕は彼女を愛してはいたけど、ふたりとも、いつも、相手のことで怒っていた。僕とブリイは、一種、いろんなことを、ふたりが結婚しているような感じにさせてはきてるけど、昔は、ふたりとも物事を変える必要を感じていなかった。多分、僕たちふたりとも未熟でわがまますぎたんだろうと思うけど、ともかく、今まではそれでやってきたんだ。たぶん、僕とブリイには、何を失っていたかを理解するために、君たちふたりの登場が必要だったんだろうな。家族としてまとまるというのは、とてもワクワクするけど、怖くもある。家族を持つのはいいけど、もし、その家族を滅茶苦茶にしてしまったらどうなるのだろう? すべてをギャンブルに掛けるリスクをおかすことになるんだよ。僕は不確かなことは嫌いなんだ」
「分かるよ。でも、時にはチャンスに賭けなきゃ」とストークリイが言った。「失敗するかもしれないけど、チャンスに賭けなきゃ、何も良いことは得られないよ」
僕はストークリイを抱き寄せた。彼女は子猫のような声を出した。「君は僕が知っている中で一番賢い11歳だよ」
「来月には12歳になるけど」
ストークリーは残ってたマフィンを食べきり、僕たちはふたりで家の中に戻った。