他のふたりはまだ寝ており、僕とストークリイのふたりでグラニーを散歩に連れて行った。戻った時までには、怠け者ふたりも起きていて、ぶらぶらしていた。ブリイはもともと朝型の人間ではないし、マギーもそうではないのは明らかだった。ふたりともくしゃくしゃ顔の眠たそうな猫のようで、盛んに背伸びをしたりあくびをしたりを繰り返していた。だが、いったんシャワーを浴びた後は、まるで人間発電機のように変わった。ブリイは僕たちを急き立てて、婚姻証明書を取り、養子関係の書類をまとめ、一時的な保護観察を開始させ、その後、ディナーへとみんなを引き連れた。シーフード料理を食べた。女の子たちは、その美味しさに驚いていた。実際は、その値段の高さに驚いていたと言ってよい。
「マック? きっとたくさんおカネを稼いでるのね?」とマギーが言った。
僕は笑った。「ああ、そこそこはね。いくら稼いでるか教えてもいいよ。だいたい、年収9万ドルかな。だから、必要とあらば、僕だけの稼ぎでみんなを養える。まあブリイは僕の10倍は稼いでるけどね」
ふたりは、唖然とした顔でブリイを見た。ブリイも笑った。「ただのおカネよ。実際、外食をしたかったら、いつでもあなたたちをレストランへ連れていくことができるわ。その余裕はあるの。でも、マックをその気にさせられたら、たいていのレストランより美味しいものを食べられるというのが実情ね」
「ブリイは料理をするの?」とマギーが訊いた。
「ええ、でも、簡単なものばかり。レシピー通りにすれば誰でもできるもの。でも、マックは天才」
「いや、実際はブリイもすごく料理が上手なんだよ」と僕は口を挟んだ。「気が散ったり、何でも焦がす残念な癖があるんだけど、それを直すことができれば、彼女は料理の達人だと言える」
ブリイが僕にパンチを繰り出した。「一回でもへまをしたら、いつまでもマックはそのことを口に出すのよ」と彼女は笑った。
僕は鼻をすすった。「結婚して最初の1年は、僕たちは犬を飼っていなかった。焦げたものを食べてもらえる犬がいなかった。焦げたものをゴミ箱に入れたら、家じゅう臭くなってしまうんだ。なので、ブリイは焦がしたものを庭の木の根元のところに捨てていた。まるで、木の神様にお供えものをしてるような感じだったよ」
みんな声に出して笑っていた。ブリイは非常に上機嫌で、僕に体をすり寄せていた。僕も彼女に腕を回し、時々、抱き寄せたりしていた。そして可憐な娘たちふたりは、そんな僕たちをみてくすくす笑っていた。
「こういうとこでメシ食ったことねえもん」とマギーが言った。
「ちょっと、マギー?」とブリイは真顔で彼女を見た。「今のはダメ。そういう言葉遣いをしてると、マックは1週間もせずに、家を出て行ってしまうわよ。あなたはもっと良い言葉使いができる人でしょ? もう一度言って」
マギーはちょっと考えた後、「あたしたちはこういう場所で食事をとったことがなかった」と言い、僕が頷くと勝ち誇ったような笑顔になった。「しゃべり方……話しの仕方は知ってる。けど、街の人たちのように話す習慣ができてしまっていただけ。あたしたち、ママが死ぬまでは学校に行っていたし、成績も良かったんだよ」
「信じるわよ。あなたたちならうまくできる。忘れないでほしいの。あたしたちはデトロイトの人間だけど、品を備えた人間だってことを」
マギーとストークリイは、パッと明るく、誇りではち切れそうな顔をした。確かに、ブリイはふたりに品の良さを身につけさせてもいた。服装をブリイの服装に似合った品のものを着せていたし、歩き方、椅子の座り方、食べたり飲んだりするマナー、化粧やヘアスタイルまで教えていた。半年もすれば、誰もが、ふたりはニューイングランドの上流階級で育ち、教育を受けたと思うだろう。ふたりとも覚えが早く、成績も良い。この夜がこれからのふたりの未来の始まりとなった。
ブリイはこの新しい生活の開始にワクワクしているようだった。家につくと、ブリイはふたりの娘たちに、「テレビをつけて、一晩中、つけっぱなしにしておいて」と言った。ふたりは不思議そうな目で彼女を見た。
「あなたたちのパパとあたしで、しなくちゃいけないことがあるの」とブリイはウインクした。マギーたちは引きつったように笑い、顔を真っ赤にした。