Free Drinks 「ただ飲み」
「こういうことどうなのかなあ」と、ジュリアンは友人たちの非常にリアルに見える胸とちらちら見ながら言った。彼は、自身の経験から、その胸がすべて偽物のシリコン製であることを知っていたが、だからと言って、見てくれの点でリアルさに欠けるというわけでは決してない。「って言うか、本当にこんなことするつもりでいる?」
「その件については、もう話し合っただろ?」とカイルが言った。もちろん彼は、この夜の間だけはカイラと呼ぶように言い張っている。この日のために、彼はブロンドの長い髪のウィッグを被り、ゼブラ模様のプリント柄のドレスを着ていた。「俺たち、遊びに出るカネがないんだ。こうする他にただ酒を飲む方法がないんだよ」
ジュリアンは頭を左右に振りながら、別の友人たちふたりにも目をやった。ふたりとも、ジュリアン自身と同様、同じように女装している。この夜はポーラと言う名前で通しているポールは、偽の胸を強調するデザインの黒単色のドレス。そして彼の右にいるアレックス。彼はアリスと言う名になっているが、あまり居心地が良くなさそうにしつつも、息をのむほど美しい変身だ。どちらも、クラブ通いをする女、そのものと言った完璧な装いだった。彼らの変装は、様々な演劇クラブで活動してきた間に培ってきた能力であり、衣類のいくつかは、彼らの演劇グループの直近の活動の後、残されたものを拝借してきたのである。4人とも、容姿は良く、将来有望な俳優でもあった。であるから、女性に変身することは、何の問題もなくこなせた。4人とも、変装にはまったく欠点がない。だが、ジュリアン……彼は今夜はジュリアという名になっているのだが……彼ジュリアンにとっては、彼らの変装が完璧であることこそが、彼を滑稽なほど居心地が悪い気持ちにさせることだった。
ポールは、脱色したブロンドの房毛を前後に揺らしながら、頭を振った。「演技の練習と考えればいいんだよ。エッチしたがりの酔っぱらった男どもが、お前のことを女だと、ひょっとするとお持ち帰りできる女かもと思い込ませることができたら、ただで酒が飲めるってこと」
「で、もし、思い込ませることができなかったら?」とジュリアンが訊いた。
「おい、頼むよ」とアリスが口を挟んだ。「お前、綺麗だぜ。何と言うか、この4人の中で一番可愛いと思う。賭けてもいいが、百万人の男どもがお前のパンティの中に忍び込みたいって思うはずだ」
「まさに、そのことを心配してるんだけど」とジュリアンはつぶやいた。
「話し合いは、もう充分」とカイルが制した。「今この瞬間から、俺たちは女になる。ごく普通の女子学生ってことでいいな? 4人のうちひとりでも、違ったふうに話し始めたら、そこで俺たちおしまいになる。そんなの誰も望んでないだろ? だから、今夜は、その役柄を演じる。そうすれば、飲みたい酒が思う存分飲めるってこと」
4人とも頷いた。だが、それでもジュリアンは気になって仕方がなかった。もし、誰かが……あるいはみんなが……単にただ酒を飲むためとは全く違ったことのためにここに来てるとしたら、どうなるんだろう、と。みんな、信じがたいほど、この機会に乗り気になっている。まったくためらうことがなかった。そして、みんながこの「役柄」に、これほどすんなりと入り込んでる。それから察するに、みんなは、実際に、こういうことを過去にしたことがあるんじゃないかと、簡単に想像できた。だけど、ジュリアンは仲間外れにされたくはなかった。みんな友だちだし、高校時代のように、周りから、変人じみた演劇オタクと独りぼっちにされることだけは避けたかった。そして、ジュリアンは、一度、大きく深呼吸し、女性的な声になって言ったのだった。「そうよ、さあ行きましょう、みんな!」
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