妊娠6か月目に入った。最近は女性になっての生活にかなり順応してきている。でも、ブラジャーを付けながら、鏡を見て、改めて悟った。もうこれ以上、自分をだまし続けることはできない。このブラジャーはどう見ても小さすぎる。カップの上に肉がはみ出ているばかりか、両脇からもはみ出ている。
結局、新しいブラジャーを買いに出て分かったのだけれども、カップのサイズで言えば、丸まる2カップ分は大きくなっていたのだった。トリプルD(
参考)からダブルGになっていた。このおっぱい、本当にバカげた大きさになっている。試着室で自分の姿を見て唖然とした。ふたつの大きなおっぱいと、妊娠して膨らんだ丸いお腹の姿。まるで自分が3つの巨大な半球だけでできていて、それにちょっとだけ顔がついているような存在。
ブラを買いには出かけたものの、実際、外に出ていくのが嫌になっていた。特に婦人服の店に行くのが嫌だった。大きなお腹をしていると、近くにいる女性たちは、ほとんどみんながみんな、どうしても僕のお腹を触りたくなってしまうようで、すぐに話しかけてはお腹を触ってくる。僕のお腹は公共のモノじゃないのに! 近寄らないでって平手打ちしたくなってるこっちの気持ちを、そういう女たち、どうして分かってくれないのかなあ。
でも普段は、カレンが服の買い物に付き合ってくれるので助かる。彼女は、主に、ウエストをベルトで留める形のゆったりしたサマードレスを選んで買ってくれた。このおかげで、妊婦用の特別なパンツを着なくても済む。それに、胸元が空いてて薄地なので、どんな他の衣類よりもずっと涼しい。最近は、常時、体が火照った状態が続いていた。
熱く火照った体に、常時、性欲が高まった状態。それに反して、自分の体が、ものすごく太って魅力を失っているように感じ始めていた。
びっくりするほど高かったけれども、結局、ブラを4つ買って帰宅した。暑くて暑くて、すぐに服を脱いで下着だけの姿になった。落ち着いて、カウチに座ったけれども、悲しくなってひとり声もなく泣いていた。そんな時、妻が仕事から帰ってきた。
「ただいま、アンバー。……えっ? どうしたの!?」
彼女はびっくりして駆け寄り、僕の横に座った。慌てた様子で両手で僕の顔を挟み、僕の目を覗き込んだ。僕が一番恐れていることは、彼女が僕を用済みと思い、僕を捨てること。一方、彼女が一番恐れていることは、何かの理由で僕が流産してしまうことだった。母体としての僕の体を心配するのは分かるけれども、彼女は過剰になりすぎることがあると言っても言い過ぎではない。
「何でもないよ。ただ、自分がデブの醜いクジラになったような気分になってしまっただけ。君は、こんなわたしを見て、どうして我慢できるてるの?」
カレンは落ち着きを取り戻していたが、僕の言葉を聞いて困惑した様子で瞬きした。「え? どういうこと? あなたはすごくセクシーよ。いつまでも、触っていたいくらいに」と、彼女は当然と言わんばかりに答えた。「どうしてそんなことを思ったの?」
僕は鼻を啜った。「新しいブラジャーを買わなくちゃいけなくなって、買いに行ったんだ。で、試着室で試着して……全身鏡でどんなふうに見えるか見てみたら、すごく大きくて!……」とそこまで言ったところで、僕は泣き出してしまった。馬鹿げた行動だとは分かっていたけど、どうしても泣かずにいられなかった。
もちろん、妻はすぐにペニス中心の考え方を始めて、僕のショッピングバッグを漁った。「へーっ、ダブルG?! あたしの妻はダブルGになってる?」
僕は返事すらしなかった。アヒルのような歩き方で寝室に行き、ドアを音を立てて閉め、鍵をかけた。僕は傷ついていたのに、彼女の方はおっぱいのサイズにしか関心がない? ベッドに突っ伏して、ひとり自分を憐れんだ。
「アンバー?」 妻がドアの向こうから呼ぶ声が聞こえた。ドアノブを回す音も。「もう、アンバー。ごめんね。あたしが何をしてあなたの気持ちを傷つけたか分からないけど、何であれ、ゴメンなさい。ああ、あなたはすごく綺麗よ? 大きなおっぱいになって、いっそうセクシーに見えているのよ?」
僕はすすり泣きをしながら、少しでも理性を取り戻そうとしていた。僕は自分が醜くなったと感じていた。一方、カレンは僕の体の性的な部分にだけ関心を向けた。そして、どういうわけか、その点に僕は怒りを感じた、と。……でも、どうしてだろう? 赤ちゃんを身ごもっていることで、頭が変になっているに違いない。少なくとも、それが理屈が通る唯一の説明に思えた。
体を引きずるようにしてベッドから降り、ドアのロックを外した。依然として怒ってはいたけれど、そういう感情を消そうと必死に頑張った。ドアを開けると、カレンが心配そうな顔をして立っていた。「あたし、何かした?」と顔をゆがめて言う。
僕は彼女の腕に顔を埋めた。「僕は、ちょっと頭が変になっていたんだ。僕の問題で、君のせいではないよ。流れに任せてくれる? お願い?」
彼女は何も言わず、僕の背中を撫でてくれた。それがとても気持ち良かった。体の前面に大きな重りを抱え、ずいぶん背中に負担をかけていたのに気づいていなかった。そう、このバカみたいに大きなおっぱいと僕たちの宝物の赤ちゃんで、背中が凝っていたのだった。
「ああ、それ、すごく気持ちいいよ、カレン。天国に登るような気持ち」
そう喘いで、妻の体をさらに自分に抱き寄せた。彼女も指を立てて腰のところを押してくれた。それがあんまり気持ち良くて、僕はあっはーんと悩ましい溜息を漏らした。