引っ越しの後、4人での暮らしが始まったが、僕はブリイとの間で互いに神経に触ることが起きないかと、かなり心配していた。実際、特に最初のころは、互いにイライラすることがあったのは事実。そして、結婚して3週間ほど経った時、ちょっと頭にくる出来事が起きたのだった。ブリイが、僕たちに連絡の電話をせずに、顧客とディナーに行ったのである。その夜、ブリイは帰宅すると、6個の咎める眼に出迎えられたのだった。
「どういうこと?」とブリイは訊いた。
ストークリーは持っていた電話を高く掲げた。それを見たブリイは怒りで目をきりッとさせたが、すぐに口をあんぐり開け、そしてワッと泣き出した。すぐに駆け寄り、みんなをソファの前に集めた。そして、その前の床にひざまずいて、すすり泣いた。「本当にごめんなさい。電話するのを忘れてしまっただけなの。電話すべきだったのに。お願い、怒らないで。こういうことは繰り返さないようにするから。絶対、繰り返さないとは約束できない。けど、あたしに注意するよう、助手に言うつもり。ディナーの場では、早くこのミーティングが終わって、家に帰れたらなあと、それしか思っていなかったのよ。許してくれる? ストークリー、マギー、マック! 本当にごめんなさい」
ブリイがそれまでの人生で謝罪したのは、10回もないのじゃないかと僕は思う。そのブリイが真摯に謝った。これは、僕たちふたりの関係がまったく新しくなる始まりだった。僕もブリイも、それぞれのやり方から脱皮し、相手を幸せにしようとしたし、ストークリーとマギーは、僕とブリイの関係を良くしようと驚くほど手助けしてくれていた。時々、僕たちこそが子供で、あのふたりの娘たちこそが大人のように感じた。
ブリイとはちょっとした口喧嘩はしたけど、僕はこれまでの人生で今ほど幸せで満足したことはなかった。ボクが教えているキャンパスに私立学校があり、ブリイは娘たちをその学校に登録した。僕が車で送り迎えをした。その送り迎えの車中で、僕と彼女たちとのきずなはいっそう深まった。ふたりともいろんなことについて話しをしてくれて、僕の人生をふたりの情熱で満たしてくれた。学校から帰ると、ふたりとも自分の部屋に直行し、宿題をした。たいていは2時間くらい勉強する。それが終わると、僕と3人でグラニーの散歩に出かけた。家で夕食を取る場合は、たいてい5時に夕食の準備を始める。ブリイは普通6時半には帰ってくる。ブリイは、遅くなる時は、充分前もって電話を入れてくれていて、そういう時は、普通みんなで外食しに出た。
マギーが16歳になる日が近づいた時、ブリイは彼女に誕生日のプレゼントに何が欲しいか訊いた。マギーは運転免許が欲しいと言った。それから2週間、マギーは教科の勉強と運転の練習をし、1発で合格した。彼女の誕生日の夜、ベッドの中でブリアナが僕に話しかけた。
「マギーに車を買ってあげたいんだけど」
「いいよ。どんな車にする?」
「カマロのコンバーチブル(
参考)の新車を考えてるの」
「いくらくらいするのかな?」
「あら、マック。それ、問題になる? あたしたちが破産するとでも?」
「いや、問題じゃないよ。ただ、どのくらいの車か知りたかっただけだよ」
「分かってる」と彼女は僕にキスをした。「ちょっと突っかかって、ごめんなさい。だいたい6万ドルくらいのを買えると思うの」
僕はヒューっと口笛を吹いた。「そりゃあ、すごい車だなあ。でも、マギーは素晴らしい女の子だ。その車に値するよ」
「ええ、そうよね」とブリイは微笑んだ。「あの子たち、ふたりともこれまでの人生、ひどいことばっかりあったわ。これからは良いことばっかりあると、ふたりにはっきり示してあげましょう」
僕たちは車を注文した。明るい黄色で黒いストライプがたくさんついている外装で、内装は黒だ。さらに、自分でもよせばいいのにとは思ったけれど、巨大エンジンのV8タイプを選んだ。ブリイは巨大エンジンの方が性能をよく発揮するだろうと思ったからで、多分、彼女の判断は正しいのだろう。ともあれ、いかにパワフルな車を与えられても、マギーが無謀な運転をするはずはないと思った。