カマロが納車されたが、すぐには見せず、ガレージの中に入れた。学校に行く時間になり、娘たちはカバンを持って、僕の後について、普段の車へと向かった。ブリアナはガレージの中にいる。僕はわざと車のドアのロックを外さなかった。
「パパ? 車に乗せて?」とストークリーが言った。
「今日は僕の車では行かないんだよ。マギー、今日は君が運転するんだ」
「ママは仕事にはいかないの?」
「いや、行くよ」
「じゃあ、あたしが運転する車は?」
僕はガレージのドアを開けるボタンを押した。「マギーが運転するのはこれだよ」と、ガレージの中を指さした。
マギーの緑の瞳が皿のように大きくなった。どちらの瞳も1分近くじっとして動かなかった。そして、その後、彼女は泣き始めた。大きな涙の粒が頬をつたい、体が木の葉のように震えていた。
僕は飛び出し、ブリイも駆け寄ってきた。両腕でマギーを抱き、ブリイも同じようにした。「何か困ったことでもあるの? 僕たちはマギーが大喜びすると思っていたんだよ。これは君の車だ。誕生日のお祝いに買ったんだよ」
マギーは何か言おうとしたが、あまりにしゃくりあげるので、何を言おうとしてるのか分からなかった。彼女は僕の胸に顔を埋め、僕とブリイは彼女が落ち着くまで、背中を叩きながら優しく抱き続けた。ストークリーも加わって一緒にマギーを抱き、ようやくマギーは落ち着き、しゃべりだした。
「車は欲しくはないの。ふたりのことをすごく愛してるから、こんな車はあたしにはもったいなさすぎ! あたしは……あたしとストークリーは、ふたりに何かモノを買わなくちゃと思ってほしくないの。ストークリーと話し合ったのよ。モノはいらないって。ただ、あたしたちを愛してくれれば、それでいいって」
そう言ってマギーは再び泣き出した。
「もちろんあなたのことを愛してるわよ」とブリイはマギーをなだめた。「他の何より、あなたたちふたりのことを愛しているの。あなたたちと一緒に家族になることは、あたしたちにとって、夢だったの。でもね、あたしたち、あなたたちにモノを買うのも大好きなのよ。あたしたちは働いてたくさんお金を稼いでる。だから、いろんなものを買ってあげることができるわ。あなたたちを幸せな気分にさせたいの。これは、あたしたちがあなたたちを愛していることを示す方法のひとつなのよ。方法と言っても、これは小さな方法。あなたたちにモノを上げることで、あたしたちふたりとも幸せな気分になれるの」
その頃にはストークリーも泣き出していた。僕はふたりの頬にキスをした。「さあ、これは本当にすごくカッコいい車なんだ。少なくとも、どんな車か見てみるだけでもいいんじゃないかな?」
ふたりは鼻をすすり、手で目をぬぐった。そして、ようやくガレージの中に入ってくれた。僕はマギーのために運転席のドアを開けてあげ、ブリアナはストークリーのために助手席のドアを開けてあげた。マギーは両手をハンドルに掛け、僕を見上げた。美しい顔に笑顔が浮かんでいる。
「マギーにお似合いの車だね。さあ、エンジンをかけてごらん」