真夜中、股間の痛みと、マットレスがひどく濡れているのを感じ目が覚めた。掛布を剥ぐと、ベッドの上がびしょぬれになっていた。
大変だ。破水している。
体温のせいか暑くて仕方なく、妻と寝るとき、体をくっつけることはしなくなっていた。そこでベッドの向こう側に手を伸ばし、カレンの身体を揺すった。
「カレン! カレン!」
彼女は寝ぼけ顔で僕を見た。「アンバー、どうしたの?」
「破水してるんだよ!」とパニックになって答えた。
それを聞いて彼女は起き上がり、突然、変身したかのように、彼女が持っている能力を最大レベルに上昇させた。
「分かった。落ち着いて。陣痛はある?」
「うーん、あったと思う。それで目が覚めたんだと思う。病院に行かなくちゃ!」
「赤ちゃんが生まれようとしてるけど、今すぐ出てくるわけじゃないわ。起きて、体をきれいにして。いいわね? あたしは入院関係の準備をバッグに詰めるから。シャワーじゃなくてお風呂に入ること。オーケー? シャワーの最中に陣痛で転んだりしたくないでしょ?」
「でも……」 僕は抵抗した。今すぐ病院に行かないといけないのに!
「アンバー。ちゃんとあたしの顔を見て。今はお風呂のことだけ考えて。その後にどうなるかは、その後で考えるの。全部、あたしがケアするから。いいわね?」
僕は急いでベッドの端に移動して、大きくなったお尻を振ってよちよち歩きでバスルームに行き、バスタブの蛇口を回した。信頼できることがひとつしかないとしたら、それは、僕の聡明で有能な妻が、必要なことすべてについて思い、考え、知っていることなのだ。僕は何を? 彼女の指示の通り、お風呂に入ることだけを考えればいいのだ。
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18時間にもわたる、これまでの人生で最も苦痛に満ちた時間の後、元気な泣き声を上げながらタイラー・レジナルド・ジョンソンはこの世界に加わった。3200グラムとというとても元気な赤ちゃん。道理で、あんなに痛かったわけだ。
僕は全身汗まみれだった。妻の指の何本か、骨を折ってしまったかもしれない。本気では思っていない脅かしの言葉を山ほど言ったかもしれない。でも、カレンからあの大切な小さな男の子を渡され、両腕で抱いた時、そして、その子に乳首をあてがい、初めて授乳した時、あの苦しみも、それに伴う乱暴も悪態も、すべてそうする価値があったのだと思った。どんなことも、そうする価値があったのだと。
カレンは震える指先で、赤ちゃんの額にかかる髪の毛を払いのけ、おののいた様子で僕に微笑みかけた。「やったわね、アンバー。ああ、すごい……あなた、驚くべきことをしたのよ」
僕も疲れた顔で笑みを返した。本当に疲れ切っていた。「僕たちやったよね。でも、どうして君が赤ちゃんを取り上げてくれなかったのか、いまだに分かっていないんだけど。君が取り上げてくれたら、手が届かなかったので、君の指の骨を折ることもなかったと思うんだけど」
彼女は両手をかざして見せた。両手ともぷるぷる震えていた。「これがそのわけよ。それは病院の方針に反するの。でも、充分正しい理由があるのよ」
「ああ、分かった。ところで本当に僕の名前を赤ちゃんにつけたいと思ってる?」 僕は出産した本人であるので、赤ちゃんの名前を決める裁量権が僕にあるという。これは知らないことだった。
「もちろん。それより良い名前が思いつかないわ」と妻は請け合った。
僕は自分の息子の顔を見た。実際、タイラーという名前はふさわしいと思った。もっとも、どんな名前も、この美しい、しわだらけのピーナッツにはふさわしいだろうけど。「こんにちは、ジュニア。愛しているよ」
カレンが感極まってすすり泣いた。「とうとう家族ができた。これがあたしの家族」
病院で回復を待つ間、ジュニアと僕には絶え間なく来客があった。カレンは職場では重視されているようで、雑役婦から病院の管理部のトップ連中に至るまで、誰もが僕と息子を見に来たがった。
望むらくは、僕とカレンの両方の両親が生きていて、孫を見られたらと願ったが、それは叶わない。
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ジュニアを優しく揺らしながら、授乳していた。ジュニアは貪欲に僕の乳房からミルクを吸っている。僕はこの時間が大好きだった。授乳のたびに、この子との絆を感じる。真夜中の授乳ですら、好きだった。
「アンバー? あと2週間くらいね。また男に戻ること、ワクワクする?」 貪欲に乳を啜る息子を見ながら、そしておそらくは、僕のおっぱいを盗み見もしつつカレンは、ニヤニヤして僕に訊いた。
僕はジュニアを見つめ、頭に手を当てた。「それについてだけど……もう1年続けたいと言ったらどう思う?」
「本気で?」 カレンは驚いた様子だった。
「ジュニアはまだ授乳中だから。Wイェックスを追加かなんかで打ったら、ミルクを出し続けることができるわけでしょう?」
「まあ、そうだけど。でも、本当にそれでいいの?」
「本気だよ。粉ミルクを使わなくてもいいなら、ずっと母乳で育てるつもり。その方がこの子にとってもいいし」
「分かったわ。病院に予約を入れておくことにする」
「ありがとう。愛しているよ」
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12か月後、今度は女の子が生まれた。ブルック・サマー・ジョンソンが僕たちの家族に加わった。
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最初のWイェックスを摂取してから、あと4日で3年目になろうとしていた。その効果が消え始めたのだった。
ブルックをお昼寝させ、ジュニアに食事をとらせている時だった。ベビーチェアに座らせ、どうかお願いだからニンジンを食べてとなだめていたら、突然、頭に奇妙なかゆみが出て、髪の毛がみるみる短くなり始めたのだった。
ジュニアは目を丸くして僕の顔を見つめ、大声で泣き始めた。
大変だ。すぐに着替えないと、服をビリビリ破いてしまうことになる。