「ここにいるんだよ、ジュニア。いい子でいるんだよ。いいね?」
本当は「ママはすぐに戻ってくるから」と言いたかったけれど、そうはならないだろう。実際、無理だ。僕は素早くジュニアの食器を片付け、寝室に急いだ。
第二段階に入って、乳房がしぼみ、代わりに筋肉が膨らんでくるのを感じ、できるだけ急いで服を脱ぎ捨てた。そして素裸でベッドに仰向けになった。骨格が変わる間、立ったままでいられそうに思えなかったから。何分もの間、辛抱強く変化が落ち着くのを待ち続けた。その間にもジュニアの泣き声はますます大きくなっていて、結局、妹のブルックも起こしてしまった。
ようやく変化が落ち着いてきて、終了したように感じ、ゆっくりとベッドから降りた。自分の身体がこれほどの大きさになることがどんな感じか、すっかり忘れていた。急いでクローゼットの一番下のところに突進し、タイラーの衣類を入れてた箱を開け、とりあえず、フィットしそうなものを選んで着た。
出産後に増加した体重が完全には戻っていなかったからか、3年前より少し太っていたが、服は充分フィットしていた。服を整え、急いで子供たちのところに戻った。そして、その時、非常に大きな問題に直面したのだった。
子供たちが僕を認識していない。
知らない人がいきなり部屋に入ってきたと、ふたりとも、いっそう激しく泣き叫んだ。だが僕はどうすることもできない。ジュニアをベビーチェアから降ろしてあげたら、彼は一目散に自分の寝室へと逃げて行ってしまった。どう考えても、僕から隠れるためとしか思えない行動だった。ブルックを抱いてなだめようとしたけれども、全然、落ち着いてくれなかった。
万策尽きて、結局、僕が知っている最も賢い人物に電話することにした。
医師たちは携帯電話を常時持っていることはない。そこで病院に電話し、彼女を呼び出してもらうことにした。家のことで緊急事態が起きたと。実際、僕の立場からすると、それは大げさな言葉ではなかった。
永遠とも思えるような長い時間の後、ようやく彼女が電話に出た。「はい、カレン・ジョンソンですが」
「カレン、すぐに家に帰ってきてほしい」 号泣するブルックを抱きながら、電話口に叫んだ。
「あなた、誰?」とカレンは怪訝そうな声を出した。僕は一瞬、呆然として手に握る電話を見つめた。
「タイラーだよ。君の夫の」 歯ぎしりしながら答えた。
「あっ、ああ……タイラー! ごめんなさい。何かあったの?」
「子供たちが僕を分からないんだよ! 家ではふたりとも怖がって、大変なんだ。君に帰ってきて、ふたりをあやしてくれないと、どうにもならないんだよ!」
「分かった。できるだけ早く帰るから」
電話を切って、ブルックのお気に入りの歌を歌ってあげたが、全然、効き目がなかった。もう気が狂いそうだった。
******
ようやく、本当にやっと、カレンが帰ってきた。しくしく泣く娘を僕の腕から抱き受け、代わりに不透明の黒いプラスチックの袋を僕に手渡した。ブルックは、カレンの腕に抱かれて、ようやく落ち着き始めた。
「ジュニアは?」 カレンはブルックを優しく揺すりながら、僕に心配そうな顔を向けた。
「自分の部屋にいる。僕は……僕はどうしたらいいんだろう?」
「あなたに渡したそれ、7日間用のピンク・Wイェックスなの。この事態、あたしが思うには、あなたはそのままパパとして、この状態を何とか対処していくか、それとも……またママに戻るかだと思うの。その方向で行きたいと思った場合のことを考えて、それを持ってきたわ。でも、どっちを選ぶかは、タイラー、あなた次第。ジュニアの様子を見てくるから、考えてみて」
カレンはブルックを抱いたままジュニアの部屋へ行った。僕はリビングに立ったまま、手の黒い袋を見つめた。
自分は、子供たちとはアンバーとして絆を築いてきた。ふたりを出産し、授乳し、お風呂に入れてきた。アンバーとしてふたりを愛し、アンバーとしてふたりに愛されてきた。
大きな枠組みで考えた場合、タイラーになることは、そんなに重要なことだろうか? いや、違う。そうじゃない。
僕は寝室に行き、Wイェックスの指示書きを注意深く読み、自分で自分に注射をした。
10分後、ママに戻った僕は前とほぼ同じ服に着替え、寝室を出た。乳房は最初の妊娠の時に2カップ分膨れ上がり、二回目の妊娠時に、さらにもう1カップ分膨らんでいたけれど、アンバーからタイラーに変わり、その後、再びアンバーに戻った時点で、その膨らんだ部分はすべて消えていた。クローゼットを漁り、妊娠前に着けていたブラジャーを引っ張り出し、身支度を整えた。
ジュニアの部屋に入ると、カレンにあやされていたジュニアは、僕のところに駆け寄ってきて、小さな腕で僕の脚に抱きついた。
ジュニアを抱き上げ、しっかりと抱きしめた。「ごめんね、すごく恐かったよね? ママはもう二度と離れないから、大丈夫。もう二度と、絶対に」
「アンバー?」 とカレンが問いかけた。
「カレン、僕はこんなことは繰り返せないよ。これからずっと、君は奥さんを持つことになるけど、それでもいいかな?」
カレンはにっこりと笑い、ブルックを少し強く抱きしめた。「ええ、もちろん。あたしは大丈夫、やっていけると思うわ」
******
「おばあちゃん、おばあちゃん! 見てみて!」
孫に目を落とすと、彼は何かの絵を掲げていた。何が描いてあるかさっぱり分からない。手を伸ばして、優しく愛し気に彼の髪を撫でてあげた。「すごく良く描けてるわね、スティーブン! グランマにも見せてあげたら?」
スティーブンが走って部屋から出ていくのを見届け、感謝祭のディナーの準備をする仕事に戻った。
隣でパイを作っているブルックが、私の肩に自分の肩を擦りつけ、ニヤリと笑った。「ママも、あれ、何が描いてあるのか分からなかったんじゃない? そうでしょ?」
「全然。でも、スティーブはあんなに自慢して見せてたわよ」
私は、一年の中で感謝祭が大好きだった。カレンよりも私の方がこの時期を楽しみにしているし、毎年楽しむバケーションよりも気に入っていると思う。感謝祭になると家族みんなが集って食事などいろいろ楽しむから。そのひと時の幸せを私は貪欲にかみしめることにしている。
ジュニアとジュニアの妻のイブ、そしてジュニア夫婦の3人の子供たち。ブルックとブルックの妻のエミリー、それにブルックたちの2人の子供たち。それにジョシュアとジョシュアの妻のジェシー。ジョシュアは私たちの3番目の子。最後に、我が一家の一番下の子のジョージ。ジョージは今はジーナ。そしてジーナの妻のフランチェスカ。みんな私たちの家族。
詰め物をしていた七面鳥から顔を上げ、背伸びをした。お腹に重りを抱えていた期間がずいぶん長かったからか、背中にそのツケが回ってきてる。
「ジョシュアが来るのは何時ごろか、分かる?」
ブルックは肩をすくめた。「多分、ギリギリだと思うわ。ジョシュアはエミリーがまた妊娠したと聞いて、すっかり変になってるの。ほら、ムラムラしてるって言うか、あれ」
「ジョシュアは、ジーナが妊娠しようとしてることには何も問題ないように思えるけど?」
ジョージとフランチェスカは、私とカレンの場合と同じで、子作りの問題を抱えていた。カレンは長い時間をかけてフランチェスカと心のこもった話し合いを続けてきたし、私も長時間、電話でジーナと妊娠した後のいろいろな問題について話し合ってきていた。
「うん、ママもよく知っているでしょ? ジョシュアは、エミリーが彼の一番の友だちのビリーだった頃からずっと、アレだったのよ。これまでの子供たちふたりが生まれるときもずっと変だったし、今度生まれてくる子供についても変になると思うわ。それはそれでいいの。エミリーは、あたしたちには、ジョシュアがそういうふうになるのを構わないでって言ってるから。ジョシュアは、新しい甥が生まれて、可愛がれるようになれば、元通りになるでしょ。ジョシュアは、ビリーっていうかエミリーが妊娠するということを思うと、おちんちんが立ってしまうだけなのよ」
私は顔をしかめた。ビリーが脳腫瘍を患い、生存するためにWイェックスを摂取しなければならず、その結果、エミリーになったことは、別にビリーが悪いわけではない。そのビリーと言うかエミリーがブルックと愛し合うようになり、彼の方が、ふたりの子供を喜んで産んだことは、素晴らしいことだった。すでにエミリーはWイェックスの摂取をしていたので、ブルックを妊娠させることはできなかったのだから。
「後でジョシュアとそのことで話をしなくちゃいけないようね」
「ママ、放っておいて。ほんとに。3か月くらいしたら、問題じゃなくなるから」
「分かったわ」 そう言って私は顔の向きを変え、娘にいたずらっぽい笑みを見られないようにした。「ところで、この前のバケーションでのママと私の写真があるの。見てみたい?」
「いやよ、ヤメテ!」とブルックは叫んだ。「あたしが、ママが男になってるのを見るの、どんだけ嫌がっているか、ママも知ってるくせに!」
年に一度、私は、Wイェックスの効果が薄れる時を見計らって、カレンとふたりでバケーションに出かける。夫と妻として。それはそれで私たちは楽しいのだけど、子供たちは嫌っていた。
子供たちが大きくなった時、私たちは、子供たちを前に座らせ、アンバーとタイラーについて話しをした。みんな、私が一時的に男性に戻ることを承諾してくれたが、男性に戻った私は、彼らにとってはやはり見知らぬ人にすぎなかった。どんなに頑張っても、無理だった。私が女性でいる方が、誰にとっても気楽なことだった。
「ほんとに見なくていいの?」
「ええ、いいの。で、次のバケーションの計画はできてるの?」 ブルックが話題を変えたけど、私は逆らわなかった。
「うん、ハワイよ。でも、今年は、私はママのままでいて、ママの方が一時的にパパになるのを考えているの」
ブルックは作っていたパイを落として、粉まみれの両手で耳をふさぎ、キッチンから駆け出した。「ああ、聞きたくない!」
私は大笑いし、笑いが止まらなかった。そこに生涯の愛する人がキッチンに入ってきた。この歳になっても、彼女は、結婚した日と変わらず美しい。
「いったい何事?」と彼女は娘が駆け出していったドアを指した。
「次のバケーションの計画についてちょっとほのめかしたの」
「ああ、それなら分かるわ。後どのくらいかかる?」
私はキッチンを見回し、残ってる作業を考えた。「多分1時間くらい。パイの仕上げがあるから。どうして?」
カレンは素早く周囲を見回し、誰もいないことを確かめた。それから手を伸ばしてきて、イタズラそうな笑みを浮かべながら、私の重たい乳房の片方を持ち上げ、掴んだ。
私は片眉を上げてにらんだ。
カレンは私に近づき、囁いた。「エミリーはお昼寝をしてるし、子供たちはそれぞれの家族と一緒で2時間くらいは出かけてるの。今はあなたとあたしだけ。ちょっと楽しいことしたくない? それとも、2人の老女のままでいる?」
「私が老女じゃないのは確かだけど? そんな手の裏を見せてしまって大丈夫? 私のおっぱいをべろべろ舐めまわるつもりなんでしょう? 何か昼食を胃袋に詰め込んだ方がいいわよ。簡単には終わらないと思うから」
私が重力を嫌っていることは言っただろうか? ほんと、この胸の重さには悩まされっぱなし。
カレンは再びあたりを見回した後、私のドレスの上から胸の谷間に顔を埋め、舐めながらぶるぶる顔を揺すった。彼女は60歳になっても、心は十代のまま。こんな年老い、太った私でも、彼女はこの乳房を愛してくれる。
私はふざけ混じりにカレンを叩き、作業の仕上げを急いだ。私はおばあちゃんかもしれないけど、今も、29歳の時と変わらず、妻のおちんちんが愛しくてたまらない。
Wイェックスでカレンの性欲がどれだけ高まっているか、試してみよう。年増の女ふたり。私の大きなお尻! カレンには、溜めこんでるものを全部、出してもらわなくちゃ。
おわり