ライアンもヘンリーも、ジェスとミアという黒髪の美女とのディナーを楽しんだ。ふたりの笑い声の音楽のような響きを聞き、お互いに冗談を言い合ってふざける様子を見ながらの食事ほど楽しいことはない。ライアンは、ジェスに答えたのと同じように、彼女の両親にも、仕事ではすべてが順調で、それが今後続かなくなると考える理由は何もないと伝えていた。本当にそうであってほしいと心から願っていた。ライアンは、自分が年功序列の点では下から2番目であり、仮に解雇が実施されたら2番目に対象になるかもしれないことを知っていた。
食事が終わり、ジェスの両親がそろそろおいとましようと告げた。互いにハグを交わし、また近々、こういう食事会を開こうと約束した。ミアとヘンリーが玄関を出ていくと、ライアンは早速、いまだクスクス笑ってる妻に手を伸ばし、彼女をおんぶした。そのまま寝室へと歩きはじめる。
ジェスは、ベッドに降ろされると、サカリのついた夫に抵抗するふりをし、すぐにも眠るように体を丸めた。
「今はそれはダメだよ」とライアンは、いまだ笑ってるジェスの上へと飛び乗り、仰向けにし、彼女の両手首を押さえつけた。ライアンも、そしてジェスも、急かすようにして相手の服を脱がし始め、すぐに裸になったふたりは、夫と妻の行為を始めるのだった。
一時解雇のうわさが出てから2週間が経っていた。ひょっとして大丈夫かもと、安心し始めた矢先、ライアンはマネジャーのオフィスに呼び出されたのだった。オフィスに入ると、そこには序列上、自分の先に位置する社員がいて、ボスのジョージさんが、なぜふたりをオフィスに呼び出したのか、その説明を始めるのを待っていたのだった。
ライアンは神妙な面持ちで聞いていた。ジョージさんが、最近注文が減っていること、そのために一時的であるが人員を削減しなければならないこと。ここにいるふたりとも、仕事ぶりは申し分ないので、2ヶ月ほどしたら、すぐに再雇用したいと思っていること、を。
ライアンは、貯蓄は200ドル程度しかないことを思った。自分が失職すると、お先真っ暗になることも。
ライアンはジェスに解雇されたことを話した。若夫婦は、ライアンが仕事に復帰できるまで持ちこたえるためのおカネをどうするかを考えた。とは言え、若いふたりが思いつく選択肢はほとんどなかった。ジェスは求人広告で、一時的にでも、自分たちが働ける仕事があるかどうか調べてみては、と提案した。夏季休暇中なので、ジェスはあと1ヶ月半は学校に行かずともよく、その時までピンチヒッターになることができる。
ライアンはすぐに仕事を見つけることができた。自動車修理の見習いの仕事である。その給与は、今回のでの減収をカバーするのには足りなかったが、どんな少額でも、おカネがはいるなら助かる。
一方のジェスは無数の募集を目にしてきていたが、資格が満たないとか、仕事を続けるためのスケジュールが不可能であるとかばかりだった。いくつか良さそうな募集もあったけれど、給与と通勤費と考えると、経済的にその仕事をする意味がなくなるものばかりだった。もうちょっと時間をおいて落ち着いて探したほうがよさそう、と思った時だった。ジェスは興味深い募集記事を目にしたのだった。
服飾メーカーの衣類を着るモデルの募集だった。複数の服飾メーカーから新作の衣類を受け付け、そのモデルとなる女性を募集しているということである。モデルとして採用されると給与は日当で支給される。募集広告によると、給与額は、正確な数字はないものの、非常に高額であるのが普通らしい。
ジェスは、自分が魅力的な女であることは自覚していたし、そのモデルスタジオの所在地も近い。これは、少なくとも確かめてみる価値はあると彼女は思ったのだった。
モデル募集の広告にあった電話番号に電話した。女性が電話に出て、当エージェンシーが求めているタイプの女性応募者であるか決めるために面接が必要であること、採用を決めた場合、どんな種類のモデル仕事をしてもらうかも判断する必要があること、自分たちのエージェンシーはまっとうな会社であること、及び、モデルとして着用する衣類の代金はすべてモデルの自分持ちになることを説明した。電話に出てるエージェンシーの女性の名はヘザーという。衣類の代金について尋ねると、衣類によって金額は様々変わると言っていた。どんなタイプのモデル仕事が自分にあっているか、それはすべてモデルの自主性に任せていると言っていた。
面接の予定が組まれた。次の水曜日、午前9時にグリーア氏とスタジオで面接するという予定である。