ジェスは面接時間の15分前にスタジオに着き、受付室へと入った。そこには、彼女の母親と同年配の美しい女性がいて、ジェスに親しそうに挨拶をした。
「おはよう。ジェスさんよね?」 彼女は最初から親しげな接し方だった。
「電話でお話しした方ですか? 確かヘザーさん」
ヘザーはジェスの愛らしい顔、適度に引き締まった体つきを褒める言葉を言い、ジェスならすぐに採用されないほうが驚きだわと伝えた。
「ちょっと今は準備のための書類をざっと見なくちゃいけないけど、それが終わったら、あなたをスタジオ内に案内するわ。そこでネイトと面接よ」
「その方がグリーアさんなのですか?」
「最初に言っておくけど、うちのスタジオでは堅苦しいことはナシにしているの。で、そうよ。グリーア氏というのはネイトのこと」
ジェスは、ヘザーに連れられて廊下を進み、その先のスタジオに入った。ヘザーはジェスに、そこにいた黒人男性を紹介した。おそらく50歳前後だろう。ハンサムだと思ったし、体つきは素晴らしいと言えるのではと思った。
「やあ、こんにちは」とネイトは声をかけた。ジェスもこんにちはとあいさつしたが、何か詳しく調べるような目つきでじろじろと見られ、少しどぎまぎしていた。
「仕事を進めるがいたって率直に言おう。君の容姿については、とても素晴らしい。申し分ない。ひと目見て分かる。ただ、君はどういうタイプの衣装だと、モデルをするときに居心地よく感じるのか、それを教えてもらう必要がある。それが分かれば、それに見合った衣装を着てもらうには、君にどのくらい肌を見せてもらわなければならないかも分かるので……」
ネイトはさらに説明を続けた。
「……我々の仕事を説明しておこう。ここでは、モデルたちを会員制のウェブサイトに載せる仕事をしている。会員はそのサイトで衣装を着ているモデルたちの動画を見る。モデルたちは、この仕事で結構な収入を得られるが、その場合、大胆になればなるほど収入も上がる……」
ネイトはもっと詳しい話に入った。
「我々が扱う衣類は、ドレスや普通のスカートとトップスの他に、水着やランジェリーも含まれる。明白なのは、会員の大半は男性であるということ。当然、可愛い女性が肌を露出した衣類を着ているのを好む会員が多い。……うちのモデルのすべてがそのルートを選ぶというわけではないが、そこがうちの会社の大半の収入の源となっているわけで、モデルたちの収入の大半にもなっている仕組みなのだよ」
話しを聞いてジェスは迷った。おカネは本当に必要。だけど、この話を聞いてライアンはどう思うだろう? たとえ動画だけの話しだとは言え、自分のビキニ姿を知らない男たちが見ると知ったら、ものすごく気にするのではないだろうか? この話、全部キャンセルする? そして、おカネについて親たちに相談する? いや、ダメ。それは選択肢に入らないわ。
ジェスは丁寧な言葉使いで、このような仕事にかかわる前に夫に話す必要があると伝えた。
「当然だね。理解できるよ」とネイトは理解を示し、傍らにいるヘザーも、微笑みながらうんうんと頷いた。
「ちょっと、ご主人がオーケーと言ってくれる場合に備えて、何か試しにモデルになってもらった方が良いと思うのだが」とネイトは持ち掛けた。「そうすれば、もし仮にこの仕事をすると決めた場合に備えて、ただちに仕事を進められる」
ジェスはためらったものの、ネイトの話しは理屈が通ってると思った。
「あたしを見るのはあなた方おふたりだけで、動画にはしないのですよね?」 とジェスはためらいがちに尋ねた。
「もちろん。それにモデルを試してくれたら、今日、我々のスタジオを検討してくれたお礼として100ドル差し上げよう」
その約束を聞き、ジェスは試してみようと決めた。それを受けて、ネイトたちは隣の部屋へ行き、その間、ジェスはひとり待った。