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報復 第2章 (10) 

バーバラは、あの日、自分に起きたことを自分の目で見ながら、再び怒りがこみ上げてくるのを感じていた。誰にも・・・誰にも私にこんなことをする権利なんかない。あの時、ピックアップ・トラックが車にぶつかってきて、川の中へと押されていたとき、本当に恐怖を感じていたのだ。川の水の深みに押され、自分もレイフも溺れてしまうかもしれないと。あの時ほど恐怖を感じた経験は他になかった。その時点では、まだスティーブの姿は見ていなかったし、車も夫のピックアップとは認識していなかった。

バーバラは怒りに興奮した声で言った。

「あなたは、あんなことをする意味なかったのよ。レイフとは何もしていなかったんだから。それに・・・」

バーバラは、夫が自分をまるっきり無視しているのを見て、先を言うのをやめた。スティーブは、忙しそうにビデオを最初に見せた画面の前へと巻き戻しし、少し早送りと巻き戻しを繰り返していた。ようやく望む画面を見つけたのか、画面を静止させた。

「さて、ここです」

スティーブは、バーバラの両親であるロイドとダイアンを見ながら言った。

「バーバラの手がちょっと上がるのが見えるでしょう。ここです。分かりますか?」

スティーブはシャツのポケットからレーザー・ポインタを取り出し、赤い光で画面上のある部分に輪郭を描いて見せた。そこの部分は小さく、不明瞭だった。

「ふう・・・!」 リディアは時々、どうしても何らかの形で自分の感想を漏らさずにはいられないようだった。

スティーブはちょっとリディアの方に目を向けた。リディアが不満を感じているのが、画面の中で起きていることに対してなのか、ビデオの画質に対してなのか、それとも、レーザー・ポインタまで用意していたスティーブの周到さについてなのか、彼には良く分からなかった。スティーブは、どうでも構わないというふうに肩をすくめ、ビデオに意識を戻し、再び巻き戻しをし、画面を止めた。

「それで・・・ここです。僕の妻が、またもや、ラファエル氏に唇のプレゼントを挙げているところです。見えますね?」

スティーブは冗談っぽい口調で言った。サンダーバードの後部窓を通して見える2人の姿は、互いに腕を相手の体に巻き付け合い、頭部を重ねあわせているのを見せていた。

「ああぁ・・・バーバラ」 ロイドは失望して溜息をついた。

「お父さん!」

バーバラはショックを受けた声を出した。父親には応援を求めていたバーバラだった。たとえいかに温和なものであれ、非難は求めていなかった。

「さて・・・」

スティーブはバーバラの声をさえぎって、先を続けた。

「・・・見て分かるとおり、僕の妻は、ここで、ちょっと前かがみになって・・・それからまた姿勢を戻しています」

スティーブは、画面内のバーバラの行動についてナレーションをしていたが、それはほとんど必要ないことではあった。とは言え、彼のナレーションは、見ている者たちに、何を見ているかを強調して伝える働きは持っていた。

「ここです!」

スティーブは、カメラのリモコンのスイッチを押し、画面を止めた。同じところを再生する。画面の中、バーバラは、一瞬、何か白いものを手に取り、それを前方に放り投げたところだった。

「見ましたか?」

誰も返事をしなかった。誰もがしっかり見ていたのは確かだった。スティーブはバーバラに目をやった。彼女の顔は死人のように青ざめていた。バーバラとスティーブだけは、何を見ているか、すでに知っていた。

「いま皆さんがご覧になったのは、僕の愛する妻が、他の男のために下着を脱いで、それをダッシュボードに放り投げたところです」

スティーブは、テレビ画面に映った白い物のぼやけた画像の持つ重要性を説明しながらも、その間、バーバラからは一時も目を離さずにいた。彼の声には叱責する声音がこもっていた。

[2007/01/18] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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